(※写真はイメージです/PIXTA)

歯の疾患が命に関わる病気を引き起こすことをご存じでしょうか。日本は、国民皆保険制度によって安く治療を受けられるがために「病気になったら治せばいい」という意識が根付いており、病気を未然に防ぐという意識や、自分で治療法を選択するということが浸透していません。予防意識を高めるために、本稿では、後回しにされがちな「歯の疾患」と全身の疾患予防の関連性を見て行きましょう。

「口内の健康」と「全身の病気の予防」は切り離せない

歯周病は糖尿病、誤嚥性肺炎、心疾患など全身疾患に悪影響を及ぼすことが分かっています。そのため、歯周病を予防することは全身疾患の予防につながります。

 

しかし、日本では医科と歯科の連携がスムーズに行われておらず、医科では口の中は診ず、歯科では口の中しか診ないというのが現状です。医師は「病気を治すに当たって歯の治療は優先順位が低い」と考えている方が多いですし、歯科医は「体のことは専門外だし、虫歯や歯周病の治療をやっていればいい」という考えなのです。

 

最近は医師のなかにも口内の健康を重視し、医科のなかで歯科衛生士を雇用したり、本や講演によって重大な病気を防ぐための歯周病治療の重要性を啓蒙したりと、医科と歯科の連携に積極的な方もいます。とはいえ、一般には「体の健康のために歯科を重視する」という方は、まだまだ少ないといえます。

 

患者も「歯科医よりも医師のほうが上」という感覚をもっている人が多く、歯科医が言ったことよりも、医師が言ったことをよく聞く傾向にあります。例えば、「肥満を防ぐために油分、糖分は控えてください」と言うと守りますが、歯科医が「ウイルスを防ぐためにちゃんと歯を磨いてください」と言ってもなかなか実行してくれないのが現状です。

 

また、組織上の問題として、日本医師会と日本歯科医師会といった団体が連携しておらず、医師と歯科医が手を組んで患者の健康を考えるという方向にはなっていないことも問題点として挙げられます。

 

私自身、医科と歯科の連携の難しさを長年感じてきました。私は講演会などで知り合った医師や、クリニックに患者として来てくれた医師、自分が治療をしてもらった医師など、話をして信頼できる方、意見が合う方、患者の健康を第一と考えている方であれば積極的に連携していきたいと考えていますが、自ら動かないと出会うことができなかった方ばかりです。医師と歯科医は、個人的な交流のなかから医科歯科連携を進めていかざるを得ないのが現状です。

全身疾患と特に関連性が深いのは「歯周病」

私が医科歯科連携を望むのは、前述のとおり歯の疾患が命に関わる病気を引き起こすからです。また、予防歯科が全身の病気の予防につながると、ひいては医療費の削減につながるとも考えています。

 

特に全身疾患と深い関係がある歯周病は、毎日の歯磨きや歯科での定期的なメンテナンスによって防ぐことができるものなので、予防を積極的に行ってほしいと考えています。

 

少し話が逸れますが、歯周病とはどんな病気なのか一度ここで詳しく説明します。

 

歯周病は、歯肉の間から入り込んだ細菌によって、歯を支えている組織に炎症が起きることから始まります。初期の段階では、歯肉が腫れたり、歯を磨いたときに出血したりしますが、痛みがないことが多いので放置しがちです。

 

しかし、歯周病菌が奥まで入り込んで炎症が進むと、歯を支える骨が溶け、歯が抜けてしまうこともあります。実際、大人が歯を失う原因は歯周病が全体の4割近くを占めています。さらに、歯周病菌や炎症によって作られる物質が血液の中に流れ出すことで、糖尿病、誤嚥性肺炎、心疾患などを引き起こすことが分かっています【図表】。

 

日本大学歯学部特任教授の落合邦康先生は、『人は口から老い 口で逝く 認知症も肺炎も口腔から』(日本プランニングセンター)という本のなかで、歯周病がいかに怖い病気であるかをデータとともに紹介しています。歯周病が全身疾患に及ぼす影響の大きさを理解してもらえれば、予防意識も高めてもらえるのではないかと思います。

 

参考:日本臨床歯周病学会HP
【図表】歯周病が全身に及ぼす影響 参考:日本臨床歯周病学会HP

歯周病菌とさまざまな生活習慣病

歯周病菌は腫れた歯肉から血管内に侵入して全身に回ります。血管に入った細菌は免疫の力によって死滅しますが、歯周病菌の死骸のもつ内毒素は血糖値を下げるホルモン(インスリン)の働きを妨害します。その結果、血糖値に悪影響を及ぼし、糖尿病の悪化につながるのです。

 

糖尿病の治療では食事療法や服薬などを行いますが、しっかりと歯磨きをして、歯周病が改善すれば薬を飲まない生活が可能になる場合もあります。

 

また、歯周病菌のなかには、誤嚥によって気管支から肺にたどり着くものもあります。そのため、歯周病は高齢者の死亡原因でもある誤嚥性肺炎の原因となるのです。

 

歯周病菌は、アルツハイマー型認知症を悪化させる可能性も示唆されています。

 

さらには、歯周病菌によって動脈硬化を誘導する物質が出て、血栓ができ、血管がつまることもあります。脳の血管がつまったり血栓が飛んだりすると、脳梗塞を引き起こす原因になります。実際、歯周病の人はそうでない人の2.8倍脳梗塞になりやすいというデータもあります。歯周病を予防することが全身の生活習慣病を予防することにつながるので、予防歯科は健康のためには重要です。

 

最近では、歯周病菌が腸内に悪影響を及ぼすことも分かっています。口は万病の元といいますが、口腔ケアは万病を防ぐことにつながるのです。

 

 

金子 泰英

医療法人KANEKO DENTAL OFFICE 理事長・院長

 

 

予防弱者 知らぬ間に不健康に陥る日本人

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金子 泰英

幻冬舎メディアコンサルティング

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