(画像はイメージです/PIXTA)

予期せぬ別れに直面したとき、人は何を思い、どう乗り越えるのか。書籍『もう会えないとわかっていたなら』(扶桑社)では、遺品整理会社、行政書士、相続診断士、税理士など、現場の第一線で活躍する専門家たちから、実際に大切な家族を失った人の印象深いエピソードを集め、「円満な相続」を迎えるために何ができるのかについて紹介されています。本連載では、その中から特に印象的な話を一部抜粋してご紹介します。

いつも笑顔の佐々木さんが流した大粒の涙

ご自宅が事務所の近所だったこともあり、佐々木さんご夫婦とはその後も何度か顔を合わせることがありました。佐々木さんは遠くからでも大きな声で元気に声をかけてくれます。

 

ご主人は近所ではよく知られた人のようで、いつも誰かと話していました。サングラスにアロハシャツといういつもの出で立ちでコンビニの店員に、

 

「おお、お前元気か? ちゃんと食べてるのか?」

 

と声をかけている姿は面倒見の良さを感じさせました。

 

あるとき、商店街でご主人を見かけて声をかけました。すぐに気付いてもらえず、近づいて声をかけると、

 

「おお先生、元気かい?」

 

とサングラス越しに笑顔を見せてくれました。そこで私は佐々木さんの話をしました。

 

「奥様、いつも笑顔でいて素敵ですよね」

 

ご主人は大きな笑い声を上げました。

 

「だろう? 俺もそう思ってるんだよ。だからあいつにはいつも笑っててほしくてよ。それで遺言も作ったんだよ。俺に何かあってもあいつが笑って暮らせるようにな」

 

佐々木さんのご主人は、それからしばらくしてこの世を去りました。

 

ご主人はずっと病を抱えていたのだそうです。サングラスをかけていたのも病気が原因ということでした。街で声をかけたとき、すぐに気付かなかったのも病気のせいで目と耳が悪くなっていたからでした。

 

その病気が悪化し、辛い闘病生活が続いたそうです。佐々木さんは仕事を辞め、つきっきりでご主人の看病にあたったものの、ご主人は帰らぬ人となったのです。

 

それから私はご主人の遺言を実行するため、粛々と事務手続きを進めました。私にできることはこれしかありません。そして、揉め事もなくすべての手続きが終了しました。

 

「遺言書、作っておいて本当に良かったわ。おかげで前向きに明るく生きていけるわ」

 

すべての手続きが済んだとき、佐々木さんはそう言って笑顔を見せてくれました。その笑顔を見てご主人の大きな笑い声を思い出しました。

 

「最後にご主人にお会いしたとき、言っていました。『あいつにはいつも笑っていてほしい』って。だから遺言を作ったって」

 

佐々木さんは一瞬、小さく頷いた後、大きな笑い声を上げました。

 

「何言ってんのかね、あの人。ほんと、恥ずかしいんだから……」

 

ご主人が大好きだった佐々木さんの笑顔に、大粒の涙が流れました。

 

本連載は、2022年8月10日発売の書籍『もう会えないとわかっていたなら』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございます。あらかじめご了承ください。

もう会えないとわかっていたなら

もう会えないとわかっていたなら

家族の笑顔を支える会

扶桑社

もしも明日、あなたの大切な人が死んでしまうとしたら──「父親が家族に秘密で残してくれた預金通帳」、「亡くなった義母と交流を図ろうとした全盲の未亡人」、「家族を失った花屋のご主人に寄り添う町の人々」等…感動したり…

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