「何言ってんの。ほんと恥ずかしい…」一緒に作った遺言書。死後知った夫の思いに、妻が涙を流したワケ (画像はイメージです/PIXTA)

予期せぬ別れに直面したとき、人は何を思い、どう乗り越えるのか。書籍『もう会えないとわかっていたなら』(扶桑社)では、遺品整理会社、行政書士、相続診断士、税理士など、現場の第一線で活躍する専門家たちから、実際に大切な家族を失った人の印象深いエピソードを集め、「円満な相続」を迎えるために何ができるのかについて紹介されています。本連載では、その中から特に印象的な話を一部抜粋してご紹介します。

「お互いに迷惑をかけないため」の遺言書

佐々木さんはいつも笑っている方でした。七〇歳を過ぎてもアクティブに動き回る佐々木さんは、いつ会っても素敵な笑顔を見せてくれます。

 

そんな佐々木さんが、ご主人と一緒に遺言書の作成依頼に来たのは二年前のとても暑い夏の日でした。

 

私の事務所は、住宅街に抜ける商店街の途中にあるので、何の連絡もなしにふらっと訪ねてくる依頼者も珍しくはありません。忙しいときには日を改めてもらいますが、時間があれば、その場でお話を伺わせていただきます。

 

佐々木さんご夫婦も、突然ふらっと訪ねてきた依頼人です。お二人を見て、最初に抱いたのは「お洒落なご夫婦」です。

 

高級ブランドに身を包んだ佐々木さんとアロハシャツにサングラスというラフな出で立ちのご主人。アンバランスな組み合わせのようにも思えますが、そう見えなかったのは二人の距離が近く、一見して仲の良さが伝わってきたからなのかもしれません。

 

「突然来ちゃって、遺言書の相談ってできるのかしら」

 

佐々木さんが言うと、強面のご主人が優しい声でこちらを気遣います。

 

「俺は電話してから来ようって言ったんだけどよ」

 

その日は時間があったので、「大丈夫ですよ」と答えると、佐々木さんは「ほら、言ったじゃない!」とご主人の腕を軽く叩きました。

 

叱られた子どものように小さく笑ったご主人の姿をとてもよく覚えています。

 

佐々木さんご夫妻には子どもがいませんでした。子どものいない夫婦の場合、相手にもしものことがあったとき、遺産の相続は配偶者だけではないため揉め事が起きやすいのですが、佐々木さん夫婦はどこかでその話を聞いていて相談に見えたのです。

 

「家族なんか増やさなくても、俺にはこいつがいてくれればそれで十分だったからね」

 

「あんた何言ってんの? 自由気ままに遊び回りたかっただけでしょう」

 

若い頃、ご主人はマスコミで働いており、ずいぶんやんちゃをして佐々木さんに苦労をかけたのだといいます。

 

「だからこれ以上迷惑かけたくなくてさ。遺言をちゃんとしておきたいんだよ」

 

そして、何度か打ち合わせを重ね、佐々木さん夫婦はそれぞれ遺言書を作成しました。公証役場ですべての手続きが終わったときも佐々木さんは「これで安心できるわ」と言って笑いました。

 

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    経堂司法書士事務所 代表

    東京都世田谷区で、遺言書の作成や相続手続きをサポート。相続争いで家族がバラバラにならないよう、遺言書の作成など、生前にできる準備を支援。また、多岐にわたる相続の悩みを包括的に解決するため、「税金なら税理士」「自宅の売却なら不動産業者」といった、各分野の専門家と連携。お客様の願いを実現する最適な方法を提案し、親から子・子から孫へ世代を超えたサポートを提供。

    著者紹介

    株式会社サステナブルスタイル 

    相続メディア「円満相続ラボ」を運営する株式会社サステナブルスタイル代表取締役 後藤光氏により、2021年11月に発足。遺品整理の現場で残された家族の姿をたくさん見てきた経験から、明らかに「円満なご家族」と「不穏な空気のご家族」に分かれることに気がつき、「円満な相続」を迎えるために何ができるだろう、と考えたことがきっかけだった。

    同会には、遺品整理会社、行政書士、相続診断士、税理士など様々な現場で活躍する専門家が所属している。

    8月10日には、「現場で見たエピソードを世の中に伝えることで、一人一人が何かを考えるきっかけになってほしい」と考え、23篇の実話を紹介する本『もう会えないとわかっていたなら』を出版した。

    相続メディア「円満相続ラボ」(株式会社サステナブルスタイル)
    https://stalgie.co.jp/kokoaru/

    著者紹介

    連載大切な家族を亡くした人々の実話から「円満相続」について考える

    本連載は、2022年8月10日発売の書籍『もう会えないとわかっていたなら』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございます。あらかじめご了承ください。

    もう会えないとわかっていたなら

    もう会えないとわかっていたなら

    家族の笑顔を支える会

    扶桑社

    もしも明日、あなたの大切な人が死んでしまうとしたら──「父親が家族に秘密で残してくれた預金通帳」、「亡くなった義母と交流を図ろうとした全盲の未亡人」、「家族を失った花屋のご主人に寄り添う町の人々」等…感動したり…

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