高齢者の9割近くが「持ち家派」だが…
総務省『平成30年住宅・土地統計調査結果』によると、日本人の持ち家率は下記のようになっている。
年齢別「持ち家率」の推移
~29歳:33.6%
30~39歳:65.0%
40~49歳:77.7%
50~59歳:85.1%
60~69歳:88.8%
70歳~ :87.3%
出所:総務省『家計調査』(2021年)
持ち家率の平均は61.2%で、30代から40代にかけて上昇していることから、多くの人がマイホームの夢を叶えていることが見て取れる。
マイホームであれば、外観や内装を自分好みに仕上げるといった楽しみもあるし、なにより、ほかでもない「我が家」手に入れた満足感と安心感は大きいだろう。
しかし現実を見ると、日本のサラリーマンの平均月収は30万7,000円程度(手取23万~24万円程度)だ。そこから住宅ローンを返済することを考えれば、マイホームの購入は人生における相当な負担となることがわかる。
翻って賃貸の場合、住宅ローンがないぶん破綻リスクは低い。また、子どもの成長や独立、老親との同居といった家族構成の変化にも、柔軟に対応可能だ。
しかし一方で、持ち家と違い、住環境を自分好みにすることが難しいといった不満や、将来にわたって家賃を払い続けることへの不安もある。とくに単身者の場合、家賃の問題は大きな懸念となりやすい。
なお、内閣府『令和4年版高齢社会白書』によれば、65歳以上の夫婦のみの世帯の持ち家率は87.4%と圧倒的だが、65歳以上単身主世帯では66.2%となっている。つまり、3割強は「生涯家賃を払い続けるプレッシャー」を感じながら暮らしている。
高齢者の住居の状況
■65歳以上の単身世帯
持ち家:66.2%
公営・UR:11.6%
民営借家:21.7%
その他:0.5%
■65歳以上の者のいる夫婦のみの世帯
持ち家:87.4%
公営・UR:5.5%
民営借家:6.9%
その他:0.3%
出所:内閣府『令和4年版高齢社会白書』より
高齢者の25%「入居を断わられた経験がある」
上述した白書から高齢の単身者の住宅事情を見ると、公営住宅やURが有力な候補となっている。公営住宅とは、国と地方公共団体が協力のうえ、住宅に困窮する低所得者のために用意するものだ。UR賃貸住宅は、UR都市機構が提供しているもので「仲介手数料」「保証人」「礼金」「更新料」すべて不要というのが大きな魅力だが、希望者が大きく希望通りに入居できないといった状況が続いている。
また、株式会社R65の調査によれば、高齢者の25%が「不動産会社に入居を断られた」経験があり、13.4%は「5回以上断られた」経験があるという。しかし、高齢者に「高齢者は賃貸住宅が借りづらいという現状を知っているか」と尋ねると、35.8%が「いいえ」と回答している。高齢者は、置かれている現状と自身の認識に少なからぬギャップがあるようだ。
賃貸オーナーが高齢者を敬遠するのは、率直なところ「孤独死リスク」が大きな要因である。死因不明の急性死や事故による死亡者の検案・解剖を行う東京都福祉保健局東京都監察医務院によると、東京23区内において、一人暮らしで65歳以上の人の自宅での死亡者数は2020年に4,238人だという。そして、その数は年々増加傾向にある。
東京23区内「一人暮らし・65歳以上の人」の自宅での死亡者数
2011年:2,618人
2012年:2,733人
2013年:2,878人
2014年:2,891人
2015年:3,127人
2016年:3,179人
2017年:3,333人
2018年:3,882人
2019年:3,936人
2020年:4,238人
出所:東京都福祉保健局東京都監察医務院資料より
万一、所有物件で孤独死が発生すれば、清掃・修繕のコストや空室リスクなど、さまざまな問題が起こるため、賃貸オーナーは高齢者を敬遠しがちだ。
日本では、今後もさらなる高齢化の進展、そして未婚率の上昇が想定される。そのことからも、高齢者の住宅難民はさらに増加することが予想される。
しばしば議論される「賃貸か、持ち家か」というテーマも、結局は人生設計と好みの問題で片づけられがちだが、もし「一生賃貸」と決めるのであれば、それなりのリスクを覚悟する必要がありそうだ。
定年後、住まいのことでつらい思いをしないためにも、現役時代から対策を講じてことが大切なのである。
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