高齢者の家賃滞納…早期解決が難しい理由
近年では、ひとり暮らしの高齢者による家賃滞納で、賃貸住宅の所有者が法的処置を取り、強制執行されるケースが増加しています。家賃滞納者が高齢の場合、いわゆる就労年齢の入居者の場合と異なり、解決に相当な時間がかかることが多いのです。
理由のひとつに、相手が高齢者であることから、オーナーが強硬な態度に出にくいことが挙げられます。身寄りのない高齢者を、自身の手で追い出すことをためらってしまうためです。
もうひとつの理由に、連帯保証人との関係性の変化という問題があります。家賃滞納者が話合いに応じない、あるいは応じたけれども支払い困難な場合、家賃契約を結んだ際の連帯保証人に支払い義務が生じます。しかし高齢入居者の場合、入居から10年以上経過していることが多く、すでに保証人と疎遠になり、連絡がつかないこともよくあるのです。仮に当時の保証人を見つけ出しても、そこから滞納した家賃と原状回復のための費用負担について納得してもらい、該当の金額を回収するという労力がかかります。
ところがその一方で、オーナーが腹をくくって裁判に挑むと、今度はスムーズ過ぎる展開に肩透かしを食らうことになります。「被告(滞納者)」は出廷することなく、答弁書による主張もなく、「原告」の主張がそのまま通ることが多いからです。
少なすぎる年金額に、心身の健康問題も影響
なぜ高齢者の家賃滞納は起きてしまうのでしょうか。
第一に、生活資金の不足があるといえます。多くの場合、高齢者の生活費の原資は公的年金ですが、厚生労働省が令和4年1月に発表した老齢基礎年金の満額は、月額6万4816円。年額で78万円未満です。現代の日本において、住まいを借り、最低限のひとり暮らしを成り立たたせるのは困難な金額です。もちろん、家賃滞納者の背景はそれぞれであり、預貯金の保有がある人、厚生年金等の受給を受けている人もいるでしょう。しかし、それでも「家賃滞納」という現実がある以上、生活費が不足している可能性は非常に高いといえます。
もうひとつが心身の健康問題です。運動機能の問題や内臓疾患等の影響で、生活がままならい可能性、そしてなにより、認知症やうつ病などの精神疾患や、脳梗塞等の後遺症が「加齢による変化」として周囲に見過ごされ、適切なサポートが受けられないといった可能性も考えられます。
認知症には「BPSD」と呼ばれる行動・心理症状があることが知られています。認知症の中核症状のほか、環境等が影響することで出現します。認知機能の衰えや、周囲の無理解などにより、イライラや不安が引き起こされ、症状が出ると考えらえています。
徘徊やせん妄があれば、周囲も認知症に気づきやすいといえますが、憂鬱、興奮、妄想などが強い場合は、年齢的な性格の変化などとして放置され、悪化することも考えられます。
認知症のリスクは決して他人ごとではありません。厚生労働省の推計では、認知症を患う高齢者の数は、平成24年(2012年)は 462万人であり、令和7年(2025年)には約700万人に達すると考えられています。65歳以上の高齢者の約5人に1人が認知症を患っているとの計算です。
政府は「団塊の世代」が 75歳以上となる2025年を見据え、認知症の早期診断・早期対応のための体制整備を急ピッチで整えているのです。
なお、厚生労働省は具体的な策として、下記の施策を掲げています。
●地域のかかりつけ医の認知症診断や、対応に関するアドバイスを行う「認知症サポート医」の養成推進
●認知症領域の専門医、認定医養成の拡充
●地域の歯科医師・薬剤師の認知症対応力向上のための研修の推進
●速やかな鑑別診断。「BPSD」(行動・心理症状)と身体合併症に対する急性期医療、
専門医療相談、関係機関との連携、研修会の開催等の役割を担う「認知症疾患医療センター」の整備
●認知症が疑われる人や認知症の人、その家族を、医療・介護の専門職員が訪問し、必要な医療や介護の導入・調整や、家族支援などの初期の支援を行い、自立生活のサポートを行う「認知症初期集中支援チーム」の各市町村への設置
政府の体制整備はもちろんですが、われわれひとりひとりが地域の高齢者に関心を寄せることが重要だといえます。高齢者の「悪意なき、やむにやまれぬ家賃滞納」という悲劇を食い止めるべく、いち早く異変に気づくことが、賃貸物件オーナーにとっても、同じ地域に暮らす人たちにとっても、非常に重要だといえるのです。
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