ならば、大学を減らせば「優秀な学生だけ」残るのか?
上記から「大学数を減らして定員も減らせば、大学間の受験生獲得競争が減って大学の卒業要件が厳しくなり、学生が勉強するようになる」とする考え方もありますが、筆者はその点においては懐疑的です。
大学の定員を減らしても、大学が受験生獲得競争を止めることはないでしょう。それは、現在の難関大学の卒業要件がそれほど厳しくないことを見れば想像がつくはずです。
さらにいうと、大学の定員を減らすのは、決して望ましいことではありません。少子化によって減少した18歳人口に合わせて定員を減らし、18歳人口に占める大学生の比率を維持することは必要だといえますが、それ以上に定員を減らして大学に入りにくくすれば、日本経済の脆弱化につながりかねません。
戦後から高度成長期にかけて、労働者の多くは農業や工業で単純労働に従事していました。当時は、大学で学んだことを活用できる仕事が少なかったわけです。しかし、経済に占める農業や工業の比率が下がり、単純労働より知的労働の比率が上がってきているわけですから、人口の過半が大学に通うのは、決して不自然なことではありません。
基礎学力が不足している学生が多いという事実があったとしても、「だから大学の定員を減らす」のではなく、義務教育や高等学校の学習で基礎学力を鍛えることが必要だといえます。
大学にも、学生にも「変革を促す」方法は…
では、大学生に勉強をさせるにはどうすればいいのでしょうか?
筆者は逆転の発想で、「企業が大学1年生に内定を出し、大学で学ぶべきことを指導したうえで、大学の成績が入社後の配属先に影響することを学生に伝える」のが有効ではないかと考えています。
いまの学生は、勉強しても就職試験に役立つわけではなく、まして入社後の配属先に役立つわけではないことから、勉強に注力していないわけですが、もし入社後の配属先に影響すると思えば、おのずと勉強に身が入るのではないでしょうか。定期的な内定者懇談会で勉強の進捗について聞き取りを行えば、さらに効果が上がるかもしれません。
その際、企業には「偏差値の高い大学の学生に内定を出す」のではなく、「学生に考える訓練をしている大学の学生に内定を出す」ということも、あわせて考えてもらいたいと思います。
そうすれば「学生に考える訓練をしないと、学生が就職できない」→「そうなれば、高校生がわが大学を受験してくれない」と考え、学生の指導の刷新につながるからです。
今回は以上です。なお、本稿は拙著『大学の常識は、世間の非常識』の内容の一部をご紹介したものであり、すべて筆者の個人的な見解です。
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経済評論家・元大学教授
塚崎 公義