いま、世界で最も注目されているイギリスのボリス・ジョンソン首相が、与党・保守党の党首を辞任するという。その奇抜な言動で、常に物議を醸し続けてきたジョンソン首相。2016年6月に行われた国民投票以来、イギリスではEU離脱をめぐって国論が二分し、政治が混乱しました。これが離脱に向けて急速に進み始めたきっかけは、2019年7月のジョンソン首相の就任でした。

チャーチルのことを強烈に意識しているジョンソンが書き下ろした評伝『チャーチル・ファクター』には、チャーチルこそ統一ヨーロッパ運動の理念的創設者であったことが強調されていいます。しかし、一方でチャーチルは「統一ヨーロッパ」に距離を置いているようにみえます。

ボリス・ジョンソン著『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)から、抜粋してお届けする。

「ヨーロッパ家族の一員として完全な役割を果たす」

1946年のチューリッヒでの演説はこんな感じである。

 

われわれはヨーロッパ合衆国なるものをつくらなくてはなりません。もしそれが首尾よく、本当に創設されるとするならば、それは各国の物質的な力の重要性を減じるものになるでしょう。ヨーロッパのすべての国がそれに加盟する意欲がなかったり、加盟が不可能な場合もあるでしょう。しかしそうでない国だけでも集結するべきです。

 

「そうでない国」とはどこのことだろうか? イギリスもそこに含まれるとチャーチルは考えたのだろうか? 1947年5月、彼はロンドンのアルバートホールで、統一ヨーロッパ運動の会長・創設者として演説し、「わが国が決定的な役割を果たす統一ヨーロッパのアイデアを提示してもらいたい」と呼びかけた。そして「イギリスはヨーロッパ家族の一員として完全な役割を果たす」という明白な公約ともとれる言葉で演説を終えたのである。

 

1950年5月には、スコットランドで演説し、自分がシューマンプランの誕生に寄与したと語った。このときもイギリスがこの計画に参加しなければならないと明確に語っている。

 

私は40年以上にわたりフランスと協力してきました。チューリッヒでは、フランスがドイツを再びヨーロッパの家族に連れ戻すために手を差し伸べ、ヨーロッパにおける主導性を取り戻すよう訴えました。今ここに、フランスのシューマン外相が提示した、フランスとドイツの石炭・鉄鋼産業統合プランがあります。

 

これはフランスとドイツの新たな戦争を防ぐための重要かつ効果的な第一歩であり、一千年にわたるゴール人とチュートン人のいさかいに終止符を打つものであります。今やフランスは私の望む以上の方法でイニシアチブをとりました。しかしそれだけでは十分でありません。フランスが適切な条件でドイツに対応できるようにするためには、われわれがフランスとともにいなければなりません。ヨーロッパの回復のためにはイギリスとフランスが力のすべて、傷のすべてをともにして立つことが重要な条件となります。

 

そしてこの二国が、寛大で慈悲深い思いで、過去を振り返るのではなく未来を見据え、名誉ある条件をもってドイツに手を差し伸べることです。何世紀にもわたり、イギリスとフランス、のちにはドイツとフランスは自分たちの間の闘争によって世界を引き裂いてきました。これらの国々は旧世界における支配的な勢力を構成し、他のすべての国が参集できる統一ヨーロッパの中心になるために、自分たちがまずまとまらなくてはなりません。

 

さらにまた、われわれは大西洋の向う側に出現した強大な世界的国家の力強い賛同を得ております。この国こそ、その力が頂点にあったとき、自由の大義のためにさらなる犠牲を顧みなかったのです。

 

換言すれば、統一されたヨーロッパはフランス、ドイツ、イギリスにとって好ましいばかりでなく、アメリカが望むところでもあるということだ。

次ページイギリスは「間違いなく海を選ぶだろう」

※本連載はボリス・ジョンソン氏の著書『チャーチル・ファクター たった一人で歴史と世界を変える力』(プレジデント社)より一部を抜粋し、再編集したものです。

チャーチル・ファクター たった一人で歴史と世界を変える力

チャーチル・ファクター たった一人で歴史と世界を変える力

ボリス・ジョンソン

プレジデント社

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