老人ホームに入居…すぐに抱いた違和感
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引っ越しには次男が立ち会ってくれて、洋服、お気に入りの食器、読み返したい本など、最初は必要最低限のものを持ち込みました。いよいよ新生活の開始です。
初日は最上階にある温泉に入り、初めての夕食を楽しみにダイニングへ向かいました。ところが、芳子さんは食事を終えて違和感を覚えたといいます。食器やカラトリーは良いものを使っていますし、盛りつけもこだわったものでした。ただ味が薄味で、自分の好みとは少し違うと感じたといいます。
翌日の朝食は、パンとごはんが選べましたが、おかずはやはり薄味で芳子さんにとっては味気のないものでした。昼食は懐石弁当で、食材は良いものをつかっているのはわかりましたが、うま味を感じません。
「試食会でいただいたお料理は、あんなに私好みだったのに……」
3日間我慢しましたが、食が進まず、次男のお嫁さんに電話で相談してみました。お嫁さんがホームの担当者に確認してくれたところ、入居者の身体を考え、普段の食事は薄味を心掛けている、見学のときの食事は月に一度の特別メニューだったとわかりました。見学でそのような説明を聞いた覚えはなく芳子さんは落ち込みます。
昼食は自分の部屋でそばをゆでたり、近所のコンビニでおにぎりを買ってきたりしたが、朝夕はそんな気力も起こりません。徐々に食欲そのものがなくなり、1ヵ月で芳子さんは5キロも痩せてしまいました。
気力がなく、他の入居者との交流も避け、部屋に閉じこもった芳子さん。次男に泣きながら電話をかけて迎えに来てもらい、自宅へ一時帰宅したのです。それから一度もホームに戻らず入居3ヵ月で退所を決めました。
芳子さんは今も、自宅でひとり暮らしを続けながら、月に1件見学をして、食事の好みが合う老人ホームを見つけることにしたそうです。
「試食会に誰かと一緒に行って、もっと質問をしていれば、ホームに対する考え方や見方も違ったのかもしれませんね」 芳子さんのように食事の好みが原因で退所する例は決して少なくありません。見学時には特別な料理ではなく、ふだんのメニューを食べさせてもらうようにお願いしたほうが賢明です。
脇 俊介
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