(※写真はイメージです/PIXTA)

中国・上海市で、新型コロナ患者収容施設確保のために国有集合住宅の入居者を強制退去させるという、前代未聞の騒動がありました。いくら国家的有事とはいえ、そこまでしなくても…と思ってしまいますが、諸外国でも類似の事例は少なくないようです。世界各国で起こった衝撃的な「強制退去」事例を見ていきましょう。

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    あいりん労働福祉センター周辺も、建物老朽化で閉鎖へ

     

    日本においても昭和時代はインフラ整備に伴う強制退去が行われ、山間部にあるいくつかの町・村がダムや遊水地建設のため水底に沈められました。「故郷を追われて、昔の人は辛かったろうなぁ…」と回顧するほど年月が経過しましたが、実は近年でも、まだ強制退去が行われている地域はあるのです。

     

    大阪市西成区のあいりん地区は日雇いの仕事で生計を立てている労働者で溢れています。周辺には安価な簡易宿泊所が林立し、労働者同士のケンカや違法商売などが絶えない「治安の悪い街」として知られています。

     

    この地には彼らをサポートする「あいりん労働福祉センター」があり、施設内には職業紹介窓口のほかシャワールーム、理髪店、食堂などが整備されており、労働者にとっての心の拠り所となっていました。しかし、ここが建物の老朽化を理由に閉鎖されることになったのです。

     

    労働者たちにとっては青天の霹靂、まさに強制退去を宣告されたに等しい状況となりました。心の拠り所を守るため、多くの労働者は建物内や敷地内にテントを張って寝泊まりするなど抵抗を続けましたが、閉鎖発表から2年後の2021年、大阪地裁から労働者たちに対する立ち退きを言い渡す判決が下されました。

     

    退去を強いられた労働者は高齢者がほとんどで、行政側は生活保護申請などを促しながら新生活への移行を手助けしていますが、歩み寄りの姿勢は見えてきません。

    再開発による強制退去は今がピーク?

     

    意外と知られていませんが、このところ都心部における強制退去が増えています。実は東京オリンピック・パラリンピック開催後も都心部の再開発事業は続行されており、都会に残る昭和の街並みが次々と取り壊されています。

     

    「国内最高層」を謳う複合ビル建設現場に選ばれた都心某エリアですが、そこに暮らす住民のほとんどは70代以上の高齢者です。住宅はいずれも築50年以上の超・築古で、細い路地が網の目のように連なる中を寄り添うように建っています。

     

    周辺は起伏に富んだ地形のため坂道が多く、富士見坂や落合坂といった古の時代から引き継がれた呼び名も所々に残っていましたが、わずか数ヵ月でのっぺりとした更地に整えられてしまいました。住民はゼネコンが用意した賃貸住宅に5年ほど仮住まいし、ビルが完成したら地権者住戸に入ることになります。しかし高齢者にとって、長年住み慣れた環境からの引越しが心身に及ぼす影響は大きく、負担は計り知れません。

     

    令和の時代にあってもこのような強引な退去事例は存在します。少なくとも日本では諸外国のような非人道的措置はないと想像しますが、今後の日本経済の動向によっては、もしかすると可能性ゼロではないのかもしれません。高額な支払い・登記を経て手に入れた大切な土地や建物であるにも関わらず、強制退去となるような事態は回避したいものです。

     

     

    ※本連載は、『ライフプランnavi』の記事を抜粋、一部改変したものです。

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