ロシアのウクライナ侵攻とエネルギー
中国では主要エネルギーである石炭生産の自給率が93%(2021年)と高いことから、他国に比べれば、ウ情勢に伴うエネルギー国際価格高騰の影響は相対的に低い。
ただ、そもそも石炭中心のエネルギー構造からの脱却を基本方針に掲げており、他方で、世界最大の原油・天然ガス輸入国で、これらの対外依存度は高い(各々2021年5.1億トン、1.2億トン、対外依存度72%、40%)。
中国国家エネルギー(能源)局が2022年3月に発表した能源5カ年計画はロシアのウ侵攻前に書かれたものだろうが、エネルギー自給を高める必要性を強調。3月全人代でもこの点について危機感が示された。能源局諮問委員は「ウ情勢と昨年の電力不足が中国を目覚めさせた」としている。
他方、ロシアは原油、天然ガス、石炭の各々、生産では世界3位、2位、6位、輸出では2位、1位、3位。エネルギーが対ロ輸入の3分の2を占める中国としては、以下のような問題がある(連載『ロシアのウクライナ侵攻下での中国全人代…20大に向けての〈シグナル〉は何か?』参照)。
①仮に原油価格が1バレル当たり1ドル上昇すると、輸入コストが35億ドル増加。ただ下記②の通り、中国がロシアの欧州向けエネルギー輸出の減少を埋める受け皿になると、対ロ価格交渉で中国が有利な立場に立つことも予想される。
②ロシアから対ロ制裁に同調しない中国へのエネルギー輸出が増え、特に中国は世界最大の石炭消費・輸入国のため、ロシアの石炭輸出の受け皿になる可能性が高い。ロシア石炭企業関係者によると、以前から両国政府は今後3〜5年以内に石炭貿易量を年1億トンにまで増やすことで合意しており、それは「必ずそうなる勢い(勢在必行)」と言われている(2月24日付中国煤炭資源網)。
③ただ、中ロのエネルギー貿易決済通貨は9割弱が米ドルとユーロ。欧米の制裁で決済に支障が生じるおそれがある。ルーブルはもとより、人民元の国際化が途上にある現状、対ロ貿易での人民元使用拡大は人民元とルーブルの「閉鎖ループ」を発生させるリスクが大きく、短期的にはともかく、中長期的に解決策にはなり難い(3月4日付米シンクタンクRhodium Groupレポート)。
④天然ガスは当面既存パイプラインに依存するため、すぐに貿易を増やすことはできない。
⑤そもそも、エネルギー輸入源が1国に偏るのは安全保障上問題との意見が中国内で強い。
本問題に関しては、中国自身の曖昧な外交姿勢が中国経済にとっての新たな不透明要因だ。ウは「一帯一路」の重要パートナーで、2013年にウと締結した友好協力条約はウに安全保障供与を約束している。一貫して主張する「国家主権・領土不可侵」外交原則との関係などの難題もある。
習政権は「戦狼外交」と呼ばれる対外強硬外交で欧米との対立を深める中、ロシアに傾斜すると同時に、経済への影響、国際社会の非難が中国にも向かってこないか不安を募らせ、どういう形であれ、早く事態が収束してほしいというのが本音ではないか。
事態がさらに悪化・長期化した場合、ロシアとウ両国に密接な関係を持つ国として、積極的に事態収拾に乗り出し、国際社会に存在感を示す選択肢を考えることもあり得る。
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