「問題の完全解決」とは言い難い状況
中国では2021年9月に31省市区のうち20以上で電力不足が顕在化し、特に東北3省(吉林、遼寧、黒龍江)では一般家庭向け電力供給も途絶え、冬の暖房への懸念が出る事態となった。10月には、日系進出企業も軒並み20〜40%の電力供給カットに見舞われ、状況は想定していた以上に深刻という声が聞こえた。
その後、2022年春にかけ状況は改善しているが、電力不足の背後には多くの内外要因があり、問題が完全に解決したとは言い難い。
電力不足発端と常態化への懸念
中国では2021年秋以降の電力不足で、「拉閘(ラージャー)限電」、つまり「ブレーカーを下す→電力供給制限」が流行語になった(図表1)。
限電の発端は、2021年9月にマクロ政策を所管する発展改革委員会(発改委)がエネルギー消費の総量と強度(対経済規模比)双方を抑える(双控)通知を発出したことだ。各地域の事情を考慮しない画一的(一切刀)な内容と言われたが、地方政府がこれに過剰に反応した。
発改委はすでに2021年上期、各地域の双控状況を点検し、江蘇、広東、雲南などに改善を促す警告を出していたが、これら地域に加え、東北3省、浙江、山東など多くの省区が深刻な影響を受けた。
2021年末に開催された中央経済工作会議(翌年の経済運営方針を議論する経済面の重要会議)は、「下期の大規模な限電で、正常な工業生産と社会生活が深刻な影響を受けた」とし、当局も事態を深刻に受け止めたことをうかがわせた。
サプライチェーン全体に歪みが生じる深刻な問題も
国営電力配送会社の国家電網は2021年11月、地域によってはなお需給ひっ迫が発生する可能性はあるとしつつも、全体としては事態は正常に戻ったと宣言。発改委も2022年2月「当面の経済情勢」分析で、2021年は「供給面の不足解決に注力した」「その結果、石炭生産増で価格が低下に転じ、電力供給は秩序ある安定(平穏有序)へ向かっている」とした。
ただ個々の状況を見ると、正常化宣言後は中国内であまり報道されていないが、工場の生産停止や限電が続く省区がある他、財市場では例えば、サプライチェーンの根幹をなす電力多消費の素材製造企業まで一律限電の対象としたため、サプライチェーン全体に歪みが生じるという深刻な問題も発生している。
4月中旬、某日系進出企業は夏の電力消費目標設定を求められ、その数値を当局と交渉中で、目標達成なら報奨金、未達だと罰金が科せられることになるという。広範にこうした電力管理が行われている可能性があり、事態が完全に収束したわけではない。
発改委や全国石炭交易センターは2022年春節明け、①石炭生産は順調に回復していること、②工場再開、厳冬による需要増が制御可能な範囲であること、③鉄道など石炭輸送能力が増強されていること、④2021年12月に発改委が発出した石炭採掘業者・買取企業・輸送企業間の中長期契約促進通知の効果が現れつつあることという4頭立て馬車(四駕馬車)が、2022年の石炭価格・供給安定をけん引するとし、3月全国人民代表大会(全人代)期間中も、発改委は「極端な状況にならない限り電力供給制限はしない。仮に極端な状況になっても停止はしない」と発言しているが、以下のような不安材料もあり、電力不足の常態化を懸念する声は根強い。
在中国米国商工会議所が中国進出米企業251社を対象に行った調査では(2021年10〜12月実施)、半数弱が見通しは不透明と回答している。
①2022年1~4月の石炭輸入は7541万トン、前年同期比16%の大幅減。国別ではオーストラリア(豪)、インドネシアが大幅に減少し、ロシアがそのシェアをさらに伸ばしているもよう。特にロシアからの鉄道による輸入が4月340万トン、3月280万トンから21%の大幅上昇になっていると伝えられる(2022年5月20日付騰訊網)。中国にとって最大の輸入先であるインドネシアが国内の需給ひっ迫を理由に突如1月の対外輸出を暫定停止輸出暫定停止、モンゴルは感染拡大による税関閉鎖の影響で低下。豪では国内で対中輸出の回復を期待する声があるが、5月の豪連邦選挙とウクライナ(「ウ」)情勢が不透明材料になった(図表2)。
②発改委の石炭価格への介入(後述)もあり、2022年1月トン当たり石炭価格は750元にまで低下したが、上記①に加え、1月中旬以降は春節、北京オリンピック、厳冬、主要石炭生産地河北省唐山の感染拡大に伴う都市封鎖や同地採掘場への環境査察による採掘作業停止といった要因が重なり、価格は再び上昇傾向にある(図表3)。
次回中編では、電力不足の主たる構造要因である石炭需給ひっ迫、当局の石炭価格への介入について詳述する。
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