2021年9月、中国で顕在化した電力不足の問題。中国政府は状況は基本的には落ち着いたとしているが、ロシアのウクライナ侵攻をはじめ、国内外の政治や地政学的要因を含む「経済以外の問題」が、事態を一層複雑にしている。強硬な外交姿勢で欧米との対立を深めている習政権も、現状ではロシアへの傾斜を見せつつ不安を募らせている。本音はどこにあるのか。真相を探る。

事態を複雑化させる「非経済要因」

ロシアのウクライナ(以下ウ)侵攻、対豪関係の悪化もそうだが、以下のような政治・地政学的要因に対する内外の関心が高い。中国ではおそらく他国以上に、こうした非経済的要因が経済問題を複雑化させている。

 

①地方政府への締め付け強化は、CO2排出量を2030年ピーク(碳達峰)、60年までにカーボンニュートラル(碳中和)を達成するという「双碳」目標が習近平国家主席の一大政治スローガンとなったことを示している。しかし、昨年末に開催された経済工作会議では「中国はなお途上国で電力需要が減少することはなく、主たるエネルギー源は石炭で短期的には代替が難しいことを正確に認識し、よく考えず双碳に突き進む(冒進)地域を抑える必要がある」とされた(2021年12月17日付中国内ネット中国経済網)。習氏のスローガンに対する党内批判をうかがわせる。

 

②2021年前半の石炭生産低迷の主要因は、腐敗汚職取締りキャンペーンの一環で、習氏が2020年来「倒査20年(20年遡って調査)」と称し、山西に次いで全国第2の石炭生産地内蒙古の石炭産業腐敗取締りを強化したことにある。

 

③地方役人はこれまで地方経済への影響を最優先に考え行動してきたが、中央への権力集中、地方に対する管理監督が強化される中、「政績」を気にして政治化、つまり、中央からよい評価を受けて昇進するため、中央の言う通りにしている。前編で述べた、発改委の双控通知に対する地方政府の過剰な反応は、そうした傾向が強まっていることを端的に示している。

 

④電力不足に陥った全責任が李克強首相にかぶせられ、まもなく任期が満了する同氏の影響力がさらに弱まったとする見方がある。同氏は企業活力を向上させる観点からコスト増となる電力供給価格の上昇を許さず、これが問題を深刻化させ、2021年10月党緊急会議で習氏が李氏の政策をひっくり返し、それが発改委の電力価格弾力化通知につながったという見立てである。ただ、価格政策については確かに李氏に責任があるとしても、対外強硬政策や石炭企業への過剰な締め付け、(上記①もそうだが)「中国のエネルギー事情を無視した」環境政策を強引に推進する習氏の責任がより重いとの不満が党内や一般国民にあるとの見方も多い。

 

⑤中国当局は「社会主義市場経済」を標榜しているが、市場の「見えざる手」より当局の「見える手」を信用する傾向が強い。特に国家安全保障に関わる資源関連産業には市場経済要素と統制経済要素が混在。上記発改委の石炭価格介入もそうだが、問題が生じると統制的側面が強まり市場が歪められる。「順調な時は両要素の利点が発揮されるが、そうでない時は逆に両要素の欠陥が増幅される。これが中国エネルギー産業の根本的問題」との指摘がある(2月10日付海外華字誌希望之声)。

 

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