「離婚」「晩婚化」による、高齢期の経済リスク
長期の生活設計に際し「リスク・リテラシーを高めて、将来のリスクに対して準備することが重要」であると、滋賀大学大学院の田中睦美氏は指摘しています。また、離婚のリスクについてのアンケート調査によると、女性が「将来に希望が持てる」とする割合は、既婚者は50.9%と約半数である一方、離婚者は18.0%と、大きな差があります※1。既婚女性より世帯年収を家族人数の平方根で除した※2等価世帯所得が低い離婚女性の高齢期は、貧困化のリスクが大きいのです。
※1 田中睦美「女性の離婚とリスクマネジメント」『危険と管理』第50号、2019年、110-124頁。
※2 世帯員の生活水準をより実感覚に近い状態で判断するため、世帯年収を家族人数の平方根で除している。既婚女性の平均は278万円、離婚女性は174万円と大きな差がある(2012年時点)。
また、晩婚化が進むと住宅ローンの完済年齢が高年齢化する点が問題となりますが、住宅ジャーナリストの山下和之氏によれば、2015年度に住宅ローンを組んで住宅を取得した人たちの当初の貸出期間をみると、最も多いのは、25年以内で組んでいる人たちであり、その割合の合計は45.6%と、半数近くに達するといいます。反対に「(30年超)35年以下」は9.6%と、全体の1割弱にとどまっています。そして、完済までの平均経過期間は15年以内に完済している人が合わせて70.8%に達する一方、完済まで15年超かけている人は3割以下にとどまっています。「(30年超)35年以下」の人はわずかに0.7%なのです※3。従って、高齢期に住宅ローンの返済負担がある人々の割合は多くないと考えられ、退職金での繰上げ返済が行われていると思われます。
※3 山下和之「驚くことに、住宅ローン完済までの平均期間はわずか14年だった」
驚くことに、住宅ローン完済までの平均期間はわずか14年だった(山下和之)-現代ビジネス-講談社(1/2)(ismedia.jp)(2022年4月17日入手)
しかし、金融審議会によれば、定年退職者の退職給付額を見ると、平均で1700万円~2000万円程度となっており、ピーク時から約3~4割程度減少しています※4。今後は高齢期の住宅ローン破綻が増加するのではないかと危惧されます。
※4 金融審議会『市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」』2018年
こうしてみると、中年期において、高齢期に経済的に破綻するリスクの大きい人々はある程度推定できるのではないかと思われます。そのことから、リスクの大きい人々に公費で家計診断を行い、将来貧困化するリスクに応じてレベルを分け、生活設計・ファイナンシャル・プランニングの研修・指導・支援を行うことは、高齢期の貧困化への一つの対処策となるかもしれません。
例えば、高齢者の健康面では糖尿病等の生活習慣病については、中年期から生活習慣を改善することで予防でき、重症化を避けることができます。そこで特定健康診査、いわゆるメタボ健診の実施や、その結果、メタボリックシンドローム該当者及びその予備群となった人に対して、個々人の状態にあった特定保健指導が実施されています。これと同様のアプローチをとるわけです。
所得増加の希望が見える一方、鍵となる「金融教育」
一方、所得を増加させる点については、流動的な株式市場と固定的な労働市場のミスマッチの解消を目指し、同時にSDGsと表裏の関係にあるESG投資に対応したESG経営により、労働分配率を増やしてゆくことが必要です。日本証券アナリスト協会は、ESG評価と労働分配率の関係について分析し、「労働分配率に対しては有意にプラスとなっている」※5としています。
※5 日本証券アナリスト協会「企業価値分析におけるESG要因」企業価値分析におけるESG要因(saa.or.jp)(2022年4月17日入手)
株価パフォーマンスにおいて、ESG(環境:Environment、社会:Social、ガバナンス:Governance)要因の中でも、S要因のレーティングが高い企業は優れているといえます。研究開発・知的財産・データ・ブランドなどの無形資産が企業価値の源泉となる中、経営における人材や人材戦略の重要性は増しており、高い人件費水準などが企業価値上昇に影響するという考え方が、アングロ・サクソン諸国でも出現しています。
エーザイCFOの柳良平氏は、「エーザイでは『人財』に10%追加投資すると5年後に約3000億円の価値を事後的・遅延的に創造できる」と述べています※6。現代の企業の競争力が最終的に人材に依存する以上、人的資本への投資が企業価値の増大に貢献することは間違いないでしょう。
※6 柳良平「ESG会計の価値提案と開示」『月刊資本市場』第428号、2021年、36ー45頁。
こうした制度的ミスマッチの解消、ESG投資によって賃金の上昇が見込まれますが、そうした収入面の改善と同時に、支出面のコントロールができなければ、人生100年時代の高齢期は貧困化のリスクは高まるに違いないといえます。
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貧困化リスクを見極め、「知識習得」による回避を
少子高齢化による公的年金制度の縮小傾向、グローバル化による製造業を中心にした雇用の減少と低賃金化、そしてデジタル化による雇用の減少等による所得の伸び悩みにより、人々が高齢期に貧困化するリスクは高まっています。
年金の支給額を増やす国家としての努力は当然必要ですが、たとえ金銭を支給しても、金融リテラシーが低ければ貧困化リスクは相対的に高くなります。所得面での支援だけでは貧困化は防ぎきれないのです。そのことから、知識付与による人々の行動変容が不可欠です。
企業丸抱えの高齢期を過ごせるのは元大企業正社員の高齢世帯だけですが、その大企業も企業年金の運用のリスクを従業員に転嫁する確定拠出型の企業年金を増やしています。これからは大企業の社員であっても「会社任せで生涯安泰」というわけにはいかず、自ら高齢期に備えるためにも、資産運用の知識が必須だといえるでしょう。
高齢者の貧困化への対処策としては、事前のプランニングが重要です。中年期の人々の家計診断と金融・ファイナンシャル・プランニングの研修・教育・支援を公的支援で行うことにより、高齢期に貧困化を低減できることは間違いありません。
今後は、ファイナンシャル・プランニングの研修・教育によって、人々の行動変容を起こすために行動経済学におけるナッジ、つまり望ましい行動をとれるよう人をそっと後押しする政策手法を用いるなど、制度についての具体的な取組方法の検討が進むことを期待したいと思います。そしてまた、効果的な技法の研究がさら進展するよう、ぜひとも今後に期待したいと思います。
藤波 大三郎
中央大学商学部 兼任講師
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