国税庁の「民間給与実態調査」によると、正規と非正規を合わせた日本人の平均年収は、1997年の467万3000円をピークとして下り坂を転げ落ち、リーマンショック翌年の2009年には405万9000円まで下がりました。日本人の給料が上がらない理由とは。北見式賃金研究所長の北見昌朗氏が著書『日本人の給料 平均年収は韓国以下の衝撃』(宝島社)で解説します。

97年以降、長期的に日本人の給料は減少傾向

―─この30年間で日本人の給料はどの程度減少したのでしょうか?

 

北見 公的機関と民間を合わせて賃金の調査はさまざまありますが、一番信頼できるデータは毎年11月頃に公表される国税庁の「民間給与実態調査」です。非課税の通勤手当を除いて、年末調整後の給与と賞与の合計が算出されているからです。

 

これによれば、正規と非正規を合わせた日本人の平均年収は、1997年の467万3000円をピークとして下り坂を転げ落ち、リーマンショック翌年の2009年には405万9000円まで下がりました。約10年間で年収は61万円減り、減収幅は1カ月で5万円を超えたのです。

 

その後、2010年、11年、12年が底となり、第二次安倍政権が発足して2013年から上昇に転じ、2018年までの6年間で平均年収は440万7000円まで上がりました。しかし、上昇に転じて給料が上がり続けたとはいえ、2018年の平均年収はピークの1997年より約30万円も低いのです。

 

2019年は若干落ちて436万4000円。これは同年10月に消費税が8%から10%に増税された影響があるかもしれません。コロナ禍の影響を受けた2020年の平均年収は、国税庁の9月の公表によれば、前年から0.8%減って433万円でした。しかし9月の公表は概要だけです。11月に公表される詳細を見れば、より深刻な面が見えてくるかもしれません。

 

1997年以降、日本人の給料は長期的に見れば減少傾向が続いており、まさに“失われた20年”と言えるのです。

 

―─北見さんは著書『消えた年収』(文藝春秋)で、とりわけ1997年からの10年間はひどい状況が続いたと指摘しています。

 

北見 勤続年数1年未満の人も含む勤労者が受け取った給料の総額は、1997年の220兆円が2007年には201兆円まで減り、10年間で約20兆円消えました。文字どおり“消えた年収”です。そしてこの10年間で、年収300万円以下の人の割合は32.2%から38.6%へ6.4ポイントも増えました。

 

この数字を見ると低所得者が増えて、いわゆる格差が開いた印象を持つかもしれませんが、実はそうではなく、年収1000万円超の人数も減っています。この期間は日本全体で低所得化が進んだのです。

 

私の地元の名古屋市は、この期間、自動車産業がけん引していち早く景気が浮揚したと見られていました。しかしそれは先入観であり、実態は異なることがわかりました。あの頃は新聞を開けば自動車関連産業の求人広告が溢れていましたが、少なからず驚いたのは自動車産業に従事する人の数は増えていなかったことです。

 

国税庁が発表する給与調査は、全国12の国税局ごとの集計や、おおまかな業種ごとの集計も行っています。これを見ると、自動車産業が含まれる「金属機械工業」の分野に従事する人数は、東海地方では100万人からほぼ横ばいで増えていません。逆に「サービス業」は14万人増えていました。自動車関連工場に非正規雇用者を派遣する人材派遣業はサービス業に含まれます。要するに自動車産業で非正規雇用者ばかりが増えたと推測できるのです。

 

東海4県(静岡、愛知、岐阜、三重)を管轄する名古屋国税局管内でも、1997年から2007年までの10年間で、給料の総額は1兆3000億円減りました。そして年収700万円を超えていた人の割合は17.4%から13.6%に減り、逆に、年収300万円以下の人は31.5%から36.6%まで増えました。総じて低所得化が進んだのです。

 

しかし唯一、平均年収の上がった人たちがいます。それが5000人以上の事業所で働く男性です。大企業で働く男性はこの期間、人数こそ33万人から31万人まで減りましたが、平均年収は716万円から735万円まで増えました。名古屋における景気浮揚の実態は、ごく一部の人だけが享受したということなのです。

 

出所:北見式賃金研究所作成、『日本人の給料 平均年収は韓国以下の衝撃』(宝島社)より
出所:北見式賃金研究所作成、『日本人の給料 平均年収は韓国以下の衝撃』(宝島社)より

 

―─名古屋だけではなく、金融危機が収束したあとに日本では大企業を中心として企業の業績は改善し、2002年2月に始まる「いざなみ景気」は戦後最長を更新して73カ月間続いたはずですが……。

 

北見 全国で見ても、この恩恵にあずかったのは大企業の一部の人たちだけでしょう。1997年の金融危機のあと、大企業は正社員の数を抑制し、給料の低い派遣社員など非正規社員を増やしました。リーマンショックが起きるとこうした非正規社員は切り捨てられ、2008年末からの年越しでは、生活困窮者のために東京の日比谷公園に年越し派遣村ができたのは周知のとおりです。

 

ちなみに先ほど、賃金の調査はさまざまあると言いましたが、アテにならないのが、公務員の給料に反映される人事院の民間給与実態調査です。これによれば、勤労者の年収は1997年からの10年間で2万1000円も上昇したことになっているのです。この調査は対象企業を抽出して調査員が実地調査しているのですが、公務員の給料を上げるために民間企業の給料が上がったと見せかけたようにしか思えません。

 

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本連載は北見昌朗氏の著書『日本人の給料 平均年収は韓国以下の衝撃』(宝島社)より一部を抜粋し、再編集したものです。

日本人の給料

日本人の給料

浜矩子、城繁幸、北見昌朗、坂田拓也、野口悠紀雄 ほか

宝島新書

日本人の平均年収は20年の長きにわたり長期減少が続いている。2000年代には世界経済が伸長して日本の企業の業績も向上したが、給料は上がるどころか、下がり続けた。 日本人の給料減少は先進諸外国と比較すると際立ってくる。…

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