「入居一時金」は支払ったほうがいい?
■「入居一時金=家賃の前払い」。支払ったほうがおトクなケースもある
安藤さん「どうして施設へ入居するときは、あんなにお金がかかるんですか? 都心部だと何千万円もかかりますよね。」
太田先生「有料老人ホームの入居一時金のことですね。施設介護はお金がかかる…、というイメージを抱く原因のひとつです。数百万円とか、数千万円という数字を見るとびっくりしますよね。でも、これは『前払い金』ともいい、一定期間の家賃を先に払うものなのです。一定期間とは、その施設にどれくらいの期間住むことになるかを想定した年月で、施設ごとに決められています。」
安藤さん「でも、すごく大きなお金ですよね。何年分の家賃を前払いすればいいんですか?」
太田先生「介護専用の施設では5年分程度が一般的ですが、住宅型では10~16年分ぐらいと、施設により幅があります。つまり、前払い金の額だけを見て、高いとか、安いとか決めつけることはできません。大切なのは、それが何年分の家賃かということ。そして、前払いすると、月々払う家賃はゼロ、もしくは少なくなります。」
安藤さん「そうなんですね。入居一時金=高い施設と思い込んでいました。では、一時金を払うほうがおトクなんですか?」
太田先生「誰にも寿命は読めないので、何ともいえません。ただ、前払いした年月の途中で退去、もしくは死亡したら、未償却金は戻ってきます。でも、詳しくは以降で説明しますが、入居した途端に償却された金額は戻ってきません。また、前払いした年月を超えて住み続けても追加料金は必要ないんです。つまり、一時金を払う場合は、“長生きするとトク”とはいえますね。」
安藤さん「でも、それってわかりませんよね。」
太田先生「そうですね。最近は前払いをしない、もしくは支払い方法を選べる有料老人ホームも増えています。施設の倒産などもありますし、慎重に考えましょう。」
「入居一時金が戻ってくる仕組み」を知っておこう
■「入居から90日以内の退去」であれば全額返還
安藤さん「入居して1ヵ月もたたないうちに、親が施設になじめず家に帰りたいと言い出したら入居一時金はどうなるのでしょう。」
太田先生「高齢になってからの度重なる引っ越しは体調を崩す原因にもなりますし、子どもにとっても施設探しをもう一度最初からやり直すのは大きな負担です。退去はできれば避けたいことですが、そうなったら即、決断して、すぐ行動に移してください。」
安藤さん「ええ~! そんなに急がなくちゃいけないんですか。」
太田先生「はい。90日以内に退去すればクーリング・オフ制度が適用されて、前払い金は全額返還(実際にかかった費用を除く)してもらうことができます。」
安藤さん「そうなんですね、だったら急がなくちゃ。」
太田先生「かつてはこのような制度がなかったので、入居一時金をめぐって事業者と入居者の間でトラブルになることも少なくありませんでした。そのため施設の入居一時金も、訪問販売などの特定商取引に適用されているクーリング・オフ制度の対象になったんです。」
■入居後90日間を過ぎても、条件次第で返還される
安藤さん「でも、90日を過ぎたら1円も戻ってこないんですよね。」
太田先生「そんなことはありません。入居一時金には初期償却率と償却期間が定められていて、償却期間内なら期間に応じたお金が戻ってきます。図表3の入居一時金500万円、初期償却率は40%の例で説明すると、40%の200万円はクーリング・オフ期間が終わった時点で償却され返還されません。しかし残りの300万円は償却期間の5年間、月単位で5万円ずつ減り、入居から満5年でゼロとなります。」
安藤さん「なるほど、きちんと考えられているんですね。でも、事業者が倒産してしまったら戻ってきませんよね。」
太田先生「これも、これまでトラブルになりがちな問題でしたが、2021年4月からすべての有料老人ホームが、未償却の一時金は最大500万円まで保全措置を講じなくてはいけないと法律で義務付けられました。」
安藤さん「いろいろなセーフティネットがあるんですね。」
太田先生「これらのことは、すべて前項で説明した『重要事項説明書』に書いてあります。重要事項説明書をきちんと読んでくださいと紹介したのは、理解しておけばトラブルを避けることができるからなんです。」
安藤さん「なるほど~。面倒がらずにちゃんと読みます。」