「1ヵ月間に支払う医療費」には「上限」がある
安藤さん「私なんてめったに病院へ行きませんが、年を取ると病院に行くことも多くなるんですよね。」
太田先生「そうですね。かかりつけ医への日常の通院だけでなく、入院したりもしますから医療費はかさみがちです。」
安藤さん「私たちは病院へ行くと窓口で3割負担しますが、高齢者も同じでしたっけ?」
太田先生「75歳以上の負担割合は1割(現役並み所得の人は2~3割)です。全員後期高齢者医療制度に加入します。健康保険が子どもの扶養になっていた場合は外す手続きが必要です。」
安藤さん「負担割合が1割でも、入院すると結構な負担ですよね。」
太田先生「後期高齢者にも『高額療養費制度』があり、現役世代より手厚くなっています。1ヵ月の自己負担額には上限があって、一定以上の負担は生じない仕組みです。限度額は、『収入』ではなく『所得』で区切られます。収入から『公的年金等控除』などを差し引いた額が『所得』です。」
たとえば、図表1の所得区分『一般』の人が医療費100万円かかると、本来の支払い額は10万円ですが、外来+入院の上限額が5万7600円と決まっているので、それだけ払えばOKです(図表2)。」
安藤さん「半額近くも負担が軽くなるんですね! 何か手続きが必要ですか?」
太田先生「所得区分が一般なら『後期高齢者医療保険証』を出すだけで、限度額までの支払いになります。ただし非課税世帯の場合は『限度額適用・標準負担額減額認定証』を入手(※)しないと、窓口での支払いに限度額は適用されませんから、必要な場合は早めに申請しましょう。」
※現役並み所得者の場合は『限度額適用認定証』が必要
「1ヵ月間の介護費用」も所得に応じて戻ってくる
安藤さん「要介護度が進むにつれて利用する介護保険サービスも増えて、お金がかかりますよね。」
太田先生「介護の必要度合いが重くなると生活のさまざまな場面でサポートが必要になりますから、介護保険サービスの利用料も高くなりがちです。」
安藤さん「でも収入はたいてい年金だけだから、支払いが増えるのは不安ですよ。」
太田先生「そんな人のために、医療費と同じように所得に応じて支払い額の上限を設定した『高額介護サービス費』という制度があります。
たとえば、図表3の例で見ていきましょう。母親の収入は公的年金のみで本人は住民税非課税ですが、父親の収入が高く、世帯で見たときの所得区分は『一般』です(図表4)。ということは、1ヵ月の介護保険サービス利用額の上限は4万4400円。これに対して夫婦合わせて5万円の介護保険サービスを利用したので、差額の5600円がそれぞれの利用割合に応じて戻ってきます。」
安藤さん「お金が戻ってくるのはうれしいのですが、自分で計算して請求しなくてはいけないのですか。私が子どもなら管理しきれません。」
太田先生「ですよね、安心してください。はじめて該当したときは自治体から支給のための申請書が送付されてきますから、振込先など必要な書類をそろえて返送すれば大丈夫。しかも2回目からは、申請をしなくても登録した口座へ振り込んでくれます。」
安藤さん「2回目からは何もしなくていいんですか、それなら安心。ショートステイも増やせますね。」
太田先生「ちょっと待って! ショートステイなどの食費や宿泊費といった介護保険給付対象外のサービス、介護保険の利用限度額を超えた分については、支給対象になりませんから注意してください。それに、住宅改修費、福祉用具購入費などの利用者負担分も対象外です。」
------------------------------------------------
<高額介護サービス費の対象にならないもの>
●介護保険の利用限度額を超えてサービスを利用した超過利用料金
●福祉用具購入や住宅改修費の自己負担分
●デイサービスやショートステイ利用時の食費、宿泊費、日常生活費など
●介護保険の給付対象外の自己負担分
●医療保険を利用したときの自己負担分
------------------------------------------------