(※写真はイメージです/PIXTA)

人々は、市場に何か問題があると感じると、政府に助けを求めることがあります。この行動は思わぬ結果につながることが珍しくありません。人間がインセンティブにどう反応するかを考慮しないでいると、よかれと思った政策が、とんでもない事態を引き起こしてしまうかもしれないのです。アメリカの経済学教師デーヴィッド・A・メイヤー氏の著書『アメリカの高校生が学んでいる経済の教室』(桜田直美訳、SBクリエイティブ)より、「上限価格」「下限価格」について見ていきましょう。

最低賃金などの「下限価格」について

■最低賃金がアップしても、労働者に恩恵はないかもしれない

需要と供給の基本を無視しているのは消費者だけではない。生産者もまた、ときには「下限価格」を要求することがある。下限価格とは、法律で定めた財、サービス、リソースの価格の下限のことだ。

 

おそらくもっとも有名な下限価格は「最低賃金」だろう。労働力のようなリソースを扱う市場では、家計が供給の側で、ビジネスが需要の側だ。単純労働の労働者がたくさんいる地域を代表する政治家は、有権者から最低賃金を上げるように圧力をかけられることが多い。最低賃金を上げることを正当化するには、賃金が上がっても経営者が同じ数の労働者を雇い続けるという前提が必要になる。しかし、これもまた、人間が人間らしく行動することを忘れてしまった前提だ。

 

たとえば、ある大都市の市議会が、有権者からの強い要望を受けて最低賃金を引き上げたとしよう。以前は連邦政府が決めた額だったが、市独自の判断で最低時給を10ドル(約1150円)とした。さらに、この市内の均衡賃金(市場の競争で決まった賃金)は、市の中心部で時給8ドル(約920円)、郊外で時給11ドル(約1270円)だとする。

 

最低賃金が時給10ドルになったことで、市の中心部と郊外それぞれでどんなことが起こるだろう? 市の中心部では、より多くの生産者(労働者)が供給を増やそうとするが、高い価格でも購入したいという消費者は少なくなる(消費者が雇用主で、購入するとは労働者を雇用すること)。その結果、単純労働の労働者の余剰が生まれる。つまり「失業」だ。

 

一方で郊外では、最低賃金の上昇は何の変化ももたらさない。均衡賃金がすでに時給11ドルだからだ。最終的に、この施策で助かったのは、仕事を維持できた単純労働者だけだった。余剰とされた人は解雇され、新しく仕事を見つけようとする人も、見つけることができなくなってしまった。

 

出所:デーヴィッド・A・メイヤー著『アメリカの高校生が学んでいる経済の教室』(SBクリエイティブ)より
[図表2]下限価格 出所:デーヴィッド・A・メイヤー著『アメリカの高校生が学んでいる経済の教室』(SBクリエイティブ)より

 

興味深いことに、最低賃金の引き上げに賛成するのは、最低賃金の引き上げによってもっとも被害を受ける人たちでもある。最近は政治家もそれがわかっているので、単純労働の均衡賃金より安い最低賃金を設定することが多くなった。たとえば、単純労働の均衡賃金が平均して時給8ドルで、最低賃金が6ドル(約690円)の場合、政治家は喜んでそれを7.5ドル(約860円)に引き上げる。経済的な影響はほとんどなく、しかも自分は最低賃金を引き上げたという実績をつくることができるからだ。

 

 

デーヴィッド・A・メイヤー

ウィンストン・チャーチル高校 AP経済学教師


桜田 直美

翻訳家

 

※本連載は、デーヴィッド・A・メイヤー氏の著書『アメリカの高校生が学んでいる経済の教室』(SBクリエイティブ)より一部を抜粋・再編集したものです。

アメリカの高校生が学んでいる経済の教室

アメリカの高校生が学んでいる経済の教室

デーヴィッド・A・メイヤー 著
桜田直美 訳

SBクリエイティブ

金融教育の先進国・アメリカでは、高校生のからお金の流れと世の中の仕組みについて学校で勉強する。 アメリカの高校生が学んでいる、「日本の学校では教えてくれない」一生ものの経済のきほんの授業を一冊に凝縮!

人気記事ランキング

  • デイリー
  • 週間
  • 月間

メルマガ会員登録者の
ご案内

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

メルマガ登録