今回は、アジアの経済成長を支える「人口ボーナス」の終了時期について説明します。※本連載は、タイの政府系金融機関の顧問として数々の実績をあげた、アジア・ビジネスのプロである越純一郎氏の代表編著、杉田浩一氏、福谷尚久氏編著の書籍『チャイナショックで荒れ狂う アジアのビジネス・リスク』(日刊工業新聞社)の内容を再編集したものです。中国が抱える人口動態リスクをもとに、中国のみならずアジア全体の経済失速の原因を探っていきます。

加速度的に進むアセアンの「高齢化問題」

前回、アジアの経済成長を支える「人口ボーナス」がもたらす弊害について説明したが、今回は、アジア諸国の人口ボーナス期は具体的にいつ頃なのかを説明する。

 

まず、アセアンの人口高齢化問題につき、大泉啓一郎氏の論考(「日本経済新聞」2016年2月1日朝刊<経済教室>より)をご紹介する。

 

①アセアンの高齢化のスピードは速い

 

●アセアンでは、出生率の低下と平均寿命の大幅な伸長の結果、加速度的に高齢化する。

 

●65歳以上の人口比率が7%から14%になる。倍化年数は世界全体では38年、日本は25年、中国は23年、アセアンは24年。

 

●アセアン全体の経済規模(名目GDP)は日本の6割なのに、65歳以上人口は既に日本を約13%上回り(2015年)、今後も年間5%以上で増加すると考えられる。アセアンは、まさに「高齢人口爆発状態」にあると言えよう。

 

②アセアンの高齢化問題は既に現実のものとなっている

 

●60歳以上の高齢人口は、既にアセアンでは5900万人もいる。これを「誰が養うのか」という問題が深刻となっている。

 

●高齢化問題は、その対処に失敗すれば高所得国への移行が困難になるという意味で、「中所得国の罠」の一つ。

 

●高齢者対策として必要な財源確保のための増税は、富裕層の反発など懸念があるうえ、失敗すれば社会不安をもたらしかねない。

 

③農村部の高齢化問題が厄介

 

●アセアンでは、ベビーブーム世代(40~50歳代)が農村に留まったまま高齢化していく。

 

●この世代が都市部で職を得ることは考えにくく、単なる都市化では解決しない。

 

●このため、地域間所得格差がさらに拡大する要因となってしまう。

 

[図表1]アジア諸国の人口ボーナス終了時期

高齢化による経済停滞は、ほとんどの国で避けられない

2015年までに中国、台湾、韓国、シンガポール、香港、タイの6か国の人口ボーナスが終了するであろうことは、2011年以降、多くの専門誌、一般誌などによって指摘されていた。中国経済の失速もこれと同様である。(※1)

 

(※1)イアン・ブレマー著『自由市場の終焉』(日本経済新聞出版社)によれば、2008年に世銀は「中国が社会の不安定化(暴動等の増加)を回避するには毎年1000~1200万人の雇用創出が必要で、それには年率9.5%以上の経済成長が必要」との推計を公表。また、同じ経済成長率で実現できる雇用創出数が縮小し、必要な経済成長率も高まり、ベルトの速さが早くなっていく「ルームランナー上」で走り続けるのが中国経済だとも述べている。

 

[図表2]中国経済失速等に関する特集の例(2011年8月~2012年1月)(筆者作成)

 

「次のフロンティア」「最後のフロンティア」がもはや存在しない2016年初段階で、まだ人口が若い国はマレーシア、インドネシア、ベトナム、フィリピン、インドだけである。

 

かつて、次のフロンティアはBRICsとか、ネクスト11だと言われたが、もはやその種の論考はない。世界のほとんどの国では、技術革新がない限り、老齢化により経済停滞が続くのである。

 

[図表3]BRICsと世界経済の見通し

チャイナショックで荒れ狂う アジアのビジネス・リスク

チャイナショックで荒れ狂う アジアのビジネス・リスク

越 純一郎

日刊工業新聞社

ビジネス・リスクに無防備な日本企業の実情を明かし、対応策を提案する本の第2弾。中国経済失速やアセアンの景気後退などの現実を背景に、もはや警鐘レベルではなくなった実際のリスクにどのように対処するかを解説している。 …

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