「人口ボーナス」は出生率の低下で始まる
総人口増加率よりも生産年齢人口増加率が大きいことを、「人口ボーナス」と言う。つまり「人口ボーナス期」とは、生産年齢人口の比率が上昇する時期である。
所得を生み出す人口を生産年齢人口といい、それ以外を従属人口という(従属人口=年少人口+老齢人口)。生産年齢人口の増加は国民所得を増加させ、生産年齢人口比率の増加は「一人あたりの国民所得」を増加させる。(※1)人口ボーナス期には経済成長が加速され、高度経済成長になりやすい。(※2)
(※1)1人あたりの国民所得は国の豊かさを示す代表的な指標で、それが12000ドル以上であることが先進国の目安とされることが多い。
(※2)ただし、戦争や内戦、国内混乱(文化大革命など)で、人口ボーナス期が無駄に過ぎ去ってしまうこともある。
人口ボーナスは、出生率の低下で始まる。産児制限や家族計画によって出生率が低下すると、幼児数が減少する一方で、年少人口が生産年齢に達して若い労働力が急増し、経済成長が加速する。これによって「東アジアの奇蹟」(※3)が生じた。
(※3)1994年発表・世界銀行著(白鳥正喜監訳)『東アジアの奇跡―経済成長と政府の役割(東洋経済新報社)』より。
半永久的に継続する「高齢化状態」と「経済停滞」
人口ボーナスで生じる高度成長は、医療水準の向上、年金の充実などをもたらすので、国民が長生きできるようになり、高齢者の比率は高まる。その後、高度経済成長は終了する。
重要なのは、高齢化した人口は元には戻らないので、高齢化状態は半永久的に継続するということだ。そのため、技術革新による経済成長がない限り、経済停滞も半永久的に継続する。
経済が停滞するまでの流れを、以下のようにまとめた。
●人口ボーナスの到来
↓
●高度経済成長
↓
●医療水準が向上し、医療を受ける余裕も増す
↓
●高齢者が長生きになり人口が高齢化
↓
●高齢化すると元に戻らないので半永久的に高齢化が続く
↓
●半永久的に経済停滞が続く(技術革新の効果を除けば)
人類はこの問題に対して、未だ解決策を持てずにいる。
国の命運は人口ボーナス終了時点の「GDP」で決まる
高齢化した人口は元に戻らないので、人口ボーナスは終わってしまうと二度目はない。従って、人口ボーナスによる高度成長も一回きりである。
つまり、現在のアジアの景気後退は一時的なものでも循環的なものでもなく、それは(技術進歩による経済成長を除けば)半永久的に継続するものである。資本の追加投入や若い移民による高度成長の再来は非現実的である。
従って、人口ボーナスが終了したあとは、高度経済成長の誘因となり得るのは技術進歩、技術革新だけである。
人口ボーナスが終了して高度成長が終わると、GDPも人口の増加が鈍る。だから、一人あたりのGDPも大きくは増えなくなる。
つまり、人口ボーナス終了までに、どのくらいの豊かさ(1人当たりGDP)に到達できるかにより、その国のその後の豊かさの水準は固定される。ニューズウィークが特集「先進国になれない中国」で述べたのもこれが理由だった。
次回は、アジア諸国の人口ボーナス期は具体的にいつ頃なのかを説明する。