(※写真はイメージです/PIXTA)

事業を営むにあたって無視できないものとして、従業員への健康診断が挙げられます。疾病の早期発見などにも寄与する健康診断ですが、従業員側から拒否された場合の対応方法については、取り扱いが不明瞭なケースが多く見受けられます。そこで今回は、健康診断を拒否する従業員への対応方法について見ていきましょう。社会保険労務士・柴垣和也氏が解説します。

健康診断の実施対象になるのは、どんな従業員?

健康診断は労働安全衛生法(昭和47年に労働基準法から分離独立)という法律に根拠規定があり、1人でも従業員を雇用する場合、1年に1回は実施が義務付けられます。

 

なお、夜勤などの深夜(午後10時から翌朝5時)業務(週1回または月4回以上)に従事する従業員の場合には、半年に1回の健康診断実施義務が課せられます。

 

健康診断には、所定の項目が定められており、事業主の判断で省略することはできません。

 

実施すべき対象者については、正社員はもちろん、パートであっても下記の2つの要件を満たす場合、実施しなければなりません。

 

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<健康診断を実施すべき対象者>

1. 期間の定めのない労働契約により使用される者(有期雇用契約の場合は契約期間が1年以上である者、契約更新により1年以上使用されることが予定されている者、1年以上引き続き使用されている者を含む)

 ※特殊健康診断は6ヵ月

 

2. 1週間の所定労働時間が同じ事業所において同種の業務に従事する正社員の4分の3以上であること(規定は4分の3未満であっても、概ね2分の1以上であれば実施することが望ましい)

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現行の法律では、従業員数が500人以下の企業の場合、社会保険においても週および月の所定労働時間が正社員の「4分の3以上」である場合、パート・アルバイトでも社会保険加入対象となります。

 

基本的にはこの部分と同様の解釈となるため、正社員の労働時間の「4分の3以上」であれば、パート・アルバイトであっても健康診断が必要となります。

安全配慮義務とは?

労働契約法第5条に以下の条文が定められています。

 

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【労働契約法第5条(労働者の安全への配慮)】

使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。

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これは安全配慮義務といい、就業規則がなくても*企業には信義則上課される義務となり、企業として従業員の安全を確保できるよう必要な配慮をしなければなりません(*常時の従業員が10人以下の場合、就業規則を設置する義務はありません)。

 

労働契約法には労働基準法と異なり、直接的な刑罰規定は設けられていませんが、安全配慮義務違反を根拠とした民事損害賠償等のリスクはあります。

しかし、従業員が健康診断を拒否する場合も…

■安全配慮義務違反と実務対応例

上記の通り、企業には従業員の安全を確保するよう配慮する義務がありますので、企業側が恣意的に健康診断を実施しないのは義務違反となります。

 

健康診断は、労働安全衛生法66条に規定がありますが、従業員の未受診は単に同法に違反するだけでなく、50万円以下の罰金に処せられる場合があります。

 

また、従業員側から健康診断の受診を拒まれた場合であっても、従業員本人の健康状態の認識と実際の健康診断の結果に乖離があることも珍しくありません。

 

よって、従業員側から「忙しいから」などといった安易な理由で拒まれたからといって、企業側がそれを黙認することはあってはなりません。

 

「従業員自身が自由な意思のもとに拒否した場合は問題ないのではないか」という意見も少なからずありますが、従業員は「自身が健康であるから大丈夫」と認識していることが多く、健康診断の受診によって異常があることが発覚するケースも多いため、健康診断の受診は必要不可欠となります。

 

健康状態に異常があり、かつ、直近の勤務状況が慢性的な長時間労働であった場合、従業員が自らの意志で受診を拒否したとしても、「問題がない」という見解にはならないはずです。

 

場合によっては、体調不良を原因とした労災請求や、本人の家族から、労働を命じておきながら健康診断未受診を黙認したことによる損害賠償請求がなされることもあり得ます。

 

このようなケースを避けるために、就業規則の懲戒規程で、健康診断の受診を拒否する場合は懲戒処分とする場合がある旨を明記するなどの対策があります。

 

実際に懲戒処分を科す場合には、慎重な対応が求められますが、この時点では、抑止的な意味合いで記載するという企業も多くあります。

 

■「企業が指定した医師」以外のところで健康診断を受けさせてもよい

従業員は原則として企業が指定する健康診断を受けなければなりません。

 

ですが、従業員が拒否する背景として、「企業が指定した医師の健康診断を希望しないため」という理由が想定されます。

 

そのような場合、他の医師が行う健康診断を受け、その結果を証明する書面を企業に提出するという対応でも違法とはなりません。その場合、必要な項目が満たされているかの確認が必須となります。

 

また、医療従事者など、突発的な対応を求められやすく時間的に健康診断を受診できない場合もあり得る職種では、企業としてあらかじめ受診率が向上するよう周知および指導をする必要があります。

まとめ

健康診断はほぼ全ての情報がセンシティブな内容であり、患者様の情報と同様に取り扱いには細心の注意を払う必要があります。労働安全衛生法104条にも「健康診断等に関する秘密の保持」として、その実施に関して知り得た従業員の秘密を漏らしてはならない規定があります。従業員との労務トラブルにお悩みの方は、是非一度ご相談ください。

 

 

柴垣 和也

社会保険労務士法人クラシコ 代表

社会保険労務士

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