ロシアによるウクライナ侵攻と激化による航空業界への影響がどのくらい続くのか、現時点で推定することは困難だ。世界の航空産業への影響は明らかにウクライナで起こっている人道悲劇の二次的なものであるが、情報に基づいた意思決定に利用いただくため、Ishkaは商用航空産業の最も直接的な帰結を以下9項目リポートする。第4回となる本記事では『8.制裁によりロシアの銀行、リース会社、OEM停止』『9.ベラルーシとウクライナ』について解説する。
1.ロシア企業にリースされている航空機
2.ロシアにある西側OEMによる製造機体
3.SWIFTおよび 支払いの制約
4.ロシア通貨ルーブル急落とロシア経済への影響
5.空域閉鎖について
6.燃油価格について
7.OEM サプライチェーンについて
8.制裁によりロシアの銀行、リース会社、OEM停止
9.ベラルーシとウクライナ
第1回目記事:『ロシアのウクライナ侵攻が航空産業に及ぼす「新たな影響」』
第2回目記事:『ロシア、EUにリンクする「すべての航空機リース活動」が制裁により完全制限へ』
第3回目記事:『ロシア問題と航空産業…航空機の「燃油価格」、機体製造の「OEMサプライチェーン」が受ける影響』
8.制裁によりロシアの銀行、リース会社、OEM停止
2月22日、米国財務省外国資産管理局(OFAC)は、主要なロシア2行の金融機関に制裁措置を導入し、米国での業務を禁止、もしくは米国の金融システムを使用することと発表。これは、Corporation Bank for Development and Foreign Economic Affairs Vnesheconombank (VEB) 、およびPromsvyazbank Public Joint Stock Company (PSB)に対する措置。
VEB子会社の資産および権利には、航空機の貸し手であるVEBリーシングOJSCが含まれる。2月24日には、OFASは貸し手であるSberBank(ズベルバンク)の事業体を追加し、これにはSberリーシングが含まれる。ズベルバンクの株式は、この3週間で50%以上下落しており、ズベルバンクが所有するヨーロッパ資産の一部は崩壊のリスクにさらされていると報告されている。
英国はまた、VTB Bank, Rostec (United Aircraft Corporation, Russian Helicopters、航空部品メーカーのTechnodinamika、およびUnited Engine Corporationのホールディング会社)を含む6つのエンティティ、および以前合併したUnited Aircraft Corporationの資産凍結を発表。ロシアの航空機メーカーであるIlyushin、Irkut、Mikoyan、Sukhoi、Tupoley、およびYakovlevも含まれる。
◆Ishkaの見解
ロシアのリース会社と航空機メーカーは、航空機の直接提供者として欧米での存在感は限られているが、業界のステークホルダーは、航空機の取引を含め、ロシアと取引する際の制約に注意する必要がある。
9.ベラルーシとウクライナ
世界最大の空の旅の市場の1つでもあり、管制空域でも最大であるロシアに多くの人は目を向けているが、制裁措置と旅行の安全対策に関しては、ベラルーシとウクライナへも影響を及ぼす。
ベラルーシの場合、米国は、ベラルーシ貨物運送業者(以前はTransAVIAexport Airlinesとして知られる)TAEAviaに対して制裁措置を導入したことがある。
ウクライナに拠点を置く一部の航空機は、ウクライナの航空会社もしくは外国籍の航空会社のいずれかであるが、ここ数週間で国外に持ち出されている。国営航空会社であるウクライナ国際航空(UIA)は、保険会社から保険を終了するという公式の通知を2月中旬に受け取っている。UIAは、当時保管するために5機のB737-800をスペインへ送った。
その後、2月14日、ウクライナは、紛争の脅威にも関わらず航空輸送を活発に保つため、5億9000万ドルの航空機保険基金を創設。この基金の創設が航空機の保有者に運航を継続するよう説得するのに十分であったかは不明であるが、ウィズエアーは2月28日に民間空域の閉鎖後、A320-200の4機が国内に閉じ込められたとCh-Aviationは確認している。
◆Ishkaの見解
現時点では、いずれかの国で立ち往生している航空機があるが、それらの機材が制裁や制約の影響をうけているかは不明。しかし、ベラルーシとウクライナの航空機所有者は、対応の準備に時間がかかったはずだ。
ベラルーシのフラッグキャリアであるBelaviaも、ミンスクが移民操作に関しEU制裁の対象になった際、ここ数カ月で複数の航空機を貸し手に返還している。これにより、ロシアのウクライナ侵攻に先立ち、Belaviaの機材数は減少していた。
Ishkaによる総括
航空ファイナンスの利害関係者は、今すぐ自分自身が持っているすべての権利を確認している状態にある。B737Maxの飛行停止、新型コロナパンデミック、そして今やロシアのウクライナ侵攻は、我々の記憶の中でこの産業に影響を与える最大の“ブラックスワン”イベントの一部である。
これらすべてがこの3年以内に起こっている。ロシア侵攻による中長期的な経済への影響は、まだ推定できないが、2020年の新型コロナパンデミックの発生と比較すると、数千機ではなく、数百機相当の機材を考慮する必要があるだろう。これらの経済的影響が、どれだけ航空産業や世界経済に害を及ぼすのか理解する価値はあるが、しかしながら、ウクライナで起こっている人道悲劇とは、かけ離れて到底比較することはできない。
制裁の緩和では、最良の結果をはかることはできないかもしれないが、暴力とロシアの軍事侵攻を即座に終わらせることは可能かもしれない。
Ishka シニアアナリスト
エドゥアルド・マリス
※ この日本語版は、読者のご理解の参考までに作成したものであり、英語版記事の補助的なものであるため、英語版が(正)となります旨、ご了承ください。