「治すことだけに力を注ぐ治療院」の経営は厳しい
変化という観点からいうとこれまで治療院の経営は、その名が示すとおり「患者を治すこと」を軸として行われ、大きな変化はありませんでした。
治療は極めて重要な要素ではありますが、患者のニーズが多様化している昨今は、ただ治すことだけに力を注ぐような治療院の経営は厳しくなっているという現実があり、業界全体が変化を求められていると感じます。
施術を主軸としたビジネスモデルだと、基本的には治った時点でその患者の来院は望めなくなります。技術力のある施術家なら、早ければ1週間、長くとも数カ月で結果を出すことができるでしょうから、そのサイクルで患者が入れ替わっていかねば、売上は落ちてしまいます。
保険が適用される項目の多かった時代には、患者はより気軽に治療院へと足を運んで来ましたが、現在では保険の適応範囲が狭まり、患者の自己負担が増えています。加えて治療院が乱立していることもあって、新規患者の獲得は極めて難しい状況です。
そんななか、身体に不調を抱えている患者ばかりをターゲットとして、施術だけで院を運営していくというのはなかなか厳しいと私は予想しています。
これからの時代、勝ち残る治療院づくりについては、異業種に目をやると、そのヒントが見えてきます。
「歯科医院」と「治療院」ビジネスモデルの相違点
近未来の治療院の在り方について考える際、私がよく参考にしているのが歯科業界です。
歯科医院のビジネスモデルは治療院のそれと酷似しており、患者の来院動機やニーズ、保険診療と自費診療の併用という構造など、共通点がいくつもあります。そして歯科医院もまたすでにその数が飽和しているといわれて久しく、鍼灸・整骨業界よりも一足早く、寡占が進んでいます。
そんな歯科業界で注目を集めているのが「予防歯科」です。虫歯を削ったり、歯を抜いたりする「治療」より、口腔内の汚れを除去したり、フッ素を塗って虫歯の発生を抑えたりという「予防」に力を入れる医院がいくつも現れ、予防歯科が軌道に乗っているところは、どんどん拡大成長を続けているのです。
なぜ治療より予防なのかというのは、事業の構造からも明らかです。治療目的の患者は不調になったときしか来院せず、治ってしまえばもう来なくなります。しかし予防なら、健康なあらゆる人をターゲットにでき、しかも患者は定期的に通って来ます。
一度気に入ってもらえたなら、10年、20年の長きにわたり、通い続けてくれるかもしれません。鍼灸・接骨業界でも、従来の施術に加え、予防という概念を広くアピールし、予防の患者を獲得していくことで、経営が安定するというのが、私の考えです。
ここでいう予防とは「病気にならない身体づくり」です。
人生100年時代「いかに健康寿命を延ばすか」が課題に
人生100年時代に入り、超高齢社会となった日本では、いかに健康寿命を延ばしていくかが、社会的な課題となっています。
もし人々の健康寿命を延ばすことができたなら、その分長く働けるようになって、経済は回り、それが国力の維持につながります。医療費も削減でき、現役世代にかかる税の負担も減らせます。人体の構造に精通し、不調を治せる技術をもった施術家は、「病気にならない身体づくり」を指導するのに最適な立場にあります。
例えば近年は、筋肉の維持が健康寿命の延長につながることが明らかになっていますが、たくさんの高齢者と接し、その身体の症状と向き合ってきた施術家だからこそ、一人ひとりがどの筋肉をどう鍛えれば、より元気に日常生活を送れるかが分かり、ここに合わせたアドバイスができます。
医師は病気を治療し、リハビリ療法士は衰えた筋力を回復させ、栄養士は身体をつくるための食事のメニューを提案し、ジムトレーナーは筋肉の効率的な付け方を教えられますが、これらすべてを行える職業としては、施術家ほど適した存在はありません。
そんな施術家のポテンシャルを社会で活かすためにも、予防という概念を広めていくのが重要なのです。
施術家としてどのように生きていくかを考えるなら、施術だけではなく予防という観点から「病気にならない身体づくり」についても学んでいくと、きっとそれが将来の活躍の原動力となるはずです。
野本 一也
株式会社NOMOKOTSU
代表
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