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ケアマネの年収、男性ケアマネの割合は?
長い年月をかけて勉強し、実務経験を積み、難関試験をクリアしてまでケアマネになろうとするモチベーションは何なのでしょうか。
まず、収入の面から見てみましょう。
厚生労働省の賃金構造基本統計調査によれば、2018年度のケアマネジャーの平均年収は385万円でした。すべての日本の民間労働者を対象にした国税庁の民間給与実態統計調査による平均年収は、2018年度が約441万円。ケアマネの平均年収は、日本人の平均年収に及ばないのです。
ただし、国税庁が出した平均年収を、日本人の給与水準と見ることはできません。一部の高額所得者が平均を引き上げているからです。
この誤差を除くために、年収を「中央値」で見る手法があります。年収の最上位と最下位の中間点の値を調べるもので、日本の年収中央値は350万~360万円といったところ。ケアマネの年収は中央値よりは高いですが、それほど高額とはいえないのです。
もっとも女性の職業として見た場合は高収入です。国税庁調べの平均年収は、女性に限れば287万円。ケアマネの平均年収は100万円近く高いのです。
ケアマネは女性が8割、男性が2割という比率です。介護はもともと女性労働者が多い業界ですが、ケアマネにも女性が多いのは、女性の職業にしては高収入という点があるのでしょう。
ほかにも、女性ケアマネが多くなる要素はあります。女性の多くは子を産み、育てます。誰もがこの役割を果たすのは、もともと女性に人のケアができる気質や感性が備わっているからでしょう。子育ての経験は介護のケアにも通じるものがあり、介護福祉士やケアマネはその経験を活かせる職業ということもあります。
かつては「看護婦」と呼ばれていたことからもわかるとおり、看護師も女性が圧倒的に多い職業です。入院患者が看護師のケアを自然に受け入れるように、介護サービスを受ける利用者も、その家族も、女性のほうが受け入れやすい。また、ケアマネが直接、利用者のケアをすることはほとんどありませんが、仕事をするうえでは経験が活きてくるわけで、その点でも女性に向いた職業といえるわけです。
そのいっぽうで、2割と少ないものの男性ケアマネもいます。
じつは、男性ケアマネは貴重な存在です。女性が8割を占めるのですから、多くの利用者は女性ケアマネが担当につくことになりますが、なかには女性には手に余る利用者がいます。古いタイプの男性で女性蔑視が染みついていて、話をまともに聞いてくれない人もいる。認知症の影響で言動が暴力的になる人もいる。体を触ってくるような人もいる。
在宅介護の現場はパワハラ、セクハラが起こりやすい場所でもあるのです。女性でもキャリアを積んだベテランは、そうした言動に遭遇してもうまくかわす術をもっているものですが、「あの利用者さんはどうしても無理」というケースはあるのです。
そういうときは、男性ケアマネの出番です。在宅介護業界では、トラブルを起こしがちな利用者のことを「困難事例」と呼んでいますが、それをおもに引き受けるのが男性ケアマネなのです。私が親しくしている男性ケアマネにも、身の危険を感じた経験が何度もあるという人がいます。
「独居で認知症の男性利用者さんなんですが、訪ずねていってドアを開けると、素っ裸で包丁をもって立っていました。なぜか興奮状態で、『入ってきたら刺すぞ』という。あわてて引き揚げました」
と、彼はその一例を語ってくれました。