親の介護は夫婦関係にも影響を及ぼす
■「終わりのない不安」が介護者を追いつめていく
介護が始まると、家族の人間関係にも波風が立ち始めます。まず、誰がおもな介護の担い手(介護者)になるかの押しつけ合いが起こります。
まず兄弟・姉妹。全員が親子関係、兄弟関係ともに良好で、均等に介護する状態が理想ですが、そんなケースはまずありません。兄弟・姉妹のうちの誰かが、いちばん負担を強いられることになります。
要介護になった親の家に同居している人か、もっとも近くに住んでいる人、男女がいる兄弟なら女性、あるいは兄弟のなかで発言力が弱い人がおもな介護者になることが多く、介護は身体的、精神的負担が強いられる大変なことばかりですから、おもな介護者になった人は当然不満をもちます。兄弟・姉妹は遺産相続の問題もからんできますから、その思惑も含めて不和が起こりやすいのです。
また、介護では夫婦関係にも影響を及ぼします。夫が要介護になった人の実子であっても、お嫁さんに介護を任せてしまう人が多いそうです。介護をきっかけに夫婦間が険悪になることも少なくありません。
経済的な負担ものしかかります。介護保険適用のサービスは原則1割の利用者負担ですし、現在介護を受けている世代は比較的、年金収入が潤沢なので、介護費用は年金で賄えるケースが多いそうですが、それでも何かと出費はある。年金で足りなければ、介護者がそのぶんを補てんしなければならないのです。
それに加わるのが、先が見えない不安です。介護の日々をつづけていれば、介護者は肉体的にも精神的にも疲弊していくうえ、経済的な悩みもさらに増えていきます。
在宅での介護が限界を迎えたときは、施設入所が選択肢に入ってきますが、それにも大きな費用がかかりますし、比較的負担が少なくて済む特別養護老人ホーム(特養)は、地域によっては入所希望者が順番待ちをしている状態。介護者からすれば八方ふさがりの状況で、いつ終わるかわからない介護をつづけるしかないわけです。
仕事をもっている介護者は、仕事と介護の両立にも悩まされます。仕事だけでも疲れるのに、それに介護が加わって疲れは増すばかり。介護をしていれば残業もできなくなるし、会社に迷惑をかけているという意識にもなります。
こうした日々がつづけば、精神的に追いつめられ、「自分が介護に専念すれば、この重荷から解放されるし、親も喜ぶのではないか」という思いが頭をよぎります。介護離職を考え始めるわけです。
しかし、介護離職をして良いことは、まずありません。たとえば親ひとり子ひとりの場合。介護者がケアに集中すれば、親を穏やかに看取ることができるかもしれない。しかし、そのあとに困難が待っています。年齢を重ねていながら職もなく、貯えも少なくなっている状況に気づいてがく然とする。自分自身の生活が窮地に追いこまれるのです。