ケアマネが担当する件数は「35件」の根拠
こんな難しい相手にも対応しなければならない。しかも男性ケアマネの場合、ほかの仕事とくらべて年収がとくに高いわけでもない。高いハードルを越えてケアマネになったのに、割に合わない仕事だともいえます。
それでもケアマネになるのは「気持ち」の部分が大きいように感じます。要介護者とその家族は、介護という重大事を前にして途方に暮れている状態。親しいケアマネのひとりは「自分が介在することで少しでも力になれれば、という思いがあります」と語ります。ケアマネになろうという人は、基本的に奉仕の精神をもっているのです。
■1人のケアマネが利用者30人ほどを担当
在宅介護のケアマネが担当する件数は「35件」という基準があります。
35件という数字の根拠のひとつは、厚生労働省(厚労省)の指導です。厚労省の「居宅介護支援の定義・基準」には「利用者35人につき、ひとりの居宅介護支援専門員(ケアマネ)を配置すること」と明記されているのです。
利用者やその家族に十分目配りし、対応する。つまり、ケアマネとしての役割を果たすには35件が限度という考えがあるのでしょう。
いっぽう、ケアマネが所属する包括や事業所サイドの事情もあります。介護サービスは原則、利用者の1割負担になっていますが、ケアマネの報酬は全額が介護保険料から支払われます。包括や事業所は、所属するケアマネが何件担当したかを書類にして厚労省に提出。担当した利用者の人数や介護度数に応じて、包括や事業所に居宅介護支援費として入金され、ケアマネの給料や事業所の経費に充てられるわけです。
居宅介護支援費は、1件あたり要介護度1と2の利用者が約1万円、要介護度3から5の人が約1万3000円。35人担当すると40万円以上になり、事業所の経営が成り立つようになるのです。この35人という担当数は上限として決められているわけではありません。受けられるのであれば、何人受けてもいいのです。
ただし、40人を超えると居宅介護支援費は半額に、さらに60人を超えると3分の1以下に減額されてしまいます。
担当する件数が増えれば当然、ケアマネの仕事は増えて疲弊してしまいますし、40件を超えれば、たいして報酬(売上)につながらない。そうしたケアマネの負担や経営が成り立つラインを事業所は考えて、「ひとりのケアマネが担当する人数は、35人程度にしている」というわけです。
いっぽう、担当人数が35人に満たないケアマネがいる事業所や「1人ケアマネ」は、報酬が少ないため、経営や生活が苦しくなります。だから、利用者にケアマネを送りこむ窓口である包括に営業活動をするのです。
というわけで、ひとりのケアマネが担当する利用者は35人が基準であり、多くのケアマネは30人前後を担当していることになります。ところが、この人数を担当するだけでも、相当大変なのです。
相沢 光一
フリーライター