●2000年を基準に2019年までの賃金伸び率がマイナスとなったのは、先進国8ヵ国のうち日本だけ。
●2000年から2019年までの期間、物価の前年比平均伸び率が、ゼロ%近辺だったのも日本だけ。
●日本の物価低迷は低賃金が一因との指摘も、雇用制度や社会保障制度の改革推進が必要に。
2000年を基準に2019年までの賃金伸び率がマイナスとなったのは、先進国8ヵ国のうち日本だけ
今回のレポートでは、主要先進国における賃金と物価の関係を検証します。なお、主要先進国は、オーストラリア、カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、日本、英国、米国の8ヵ国、検証期間は2000年から2019年までの20年間とし、データは経済協力開発機構(OECD)のデータを使用しています。はじめに、賃金(現地通貨建て名目賃金)からみていきます。2000年を100として指数化すると、図表1の通りになります。
基準年の2000年から2019年までの賃金の伸びを確認すると、8ヵ国のなかで、賃金の伸びがマイナスとなっているのは日本だけです(-4.2%)。日本を除く7ヵ国の賃金の伸びをみると、オーストラリアは80%台、カナダ、英国、米国は60%台、フランス、ドイツは50%台、イタリアは40%台となっています。このように、日本と、日本を除く7ヵ国の賃金伸び率の格差は歴然です。
2000年から2019年までの期間、物価の前年比平均伸び率が、ゼロ%近辺だったのも日本だけ
次に、消費者物価指数の動きを確認してみます。2000年から2019年までの20年間において、各年の消費者物価指数の前年比伸び率を平均したものが図表2です。日本は0.1%と低さが突出しており、日銀の物価目標である2%を大きく下回っています。参考までに、以下、各国の平均物価伸び率と物価目標を確認していきます。オーストラリアは2.6%で、2~3%の物価目標におさまっています。
米国は2.2%と、物価目標の2%(2020年8月より一定期間の平均で2%に修正)をやや上回った一方、英国は2.0%で、物価目標と一致、カナダは1.9%で、2%を中心に1~3%の範囲内とする物価目標におさまっています。フランス、ドイツ、イタリアは、順に1.6%、1.5%、1.8%で、欧州中央銀行(ECB)の2%未満だがその近辺とする物価目標(2021年7月より2%に修正)と大きなかい離はありませんでした。
日本の物価低迷は低賃金が一因との指摘も、雇用制度や社会保障制度の改革推進が必要に
日本の物価が伸び悩む理由については、さまざまな議論が行われていますが、名目賃金の低迷も、その一因として指摘されています。確かに、賃金が上昇すれば、消費が増え、物価は上昇しやすくなると一般的には考えられます。少なくとも、量的緩和によってマネーを増やせば、インフレ期待が強まって実際の物価も上昇する、というメカニズムは、過去のデータをみる限り、あまり機能しなかったように思われます。
この点を踏まえると、岸田首相の賃上げ税制は理にかなっていますが、とりあえず制度を整えたという段階です。実際に賃上げの判断をするのは企業であり、賃金が増えても消費の判断をするのは家計です。したがって、企業が賃金を増やせるような環境、家計が増えた賃金を将来の不安なく消費に回せるような環境の整備が必要であり、そのためには、雇用制度や社会保障制度の一段の改革などが求められます。
※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『主要先進国における賃金と物価の関係』を参照)。
(2021年12月15日)
市川 雅浩
三井住友DSアセットマネジメント株式会社
チーフマーケットストラテジスト