「規制緩和のたびに所得補償をする」のではなく…
食料品輸入の増加は、国内でそれらの食料品を生産していた農家や水産業者の所得の減少という犠牲を伴った。しかし、日本人全体の消費者の利益のほうが彼らの所得の減少よりもはるかに大きかった。
規制緩和や輸入関税の引き下げの際には、それによって所得が減少する生産者に所得補償したり、転作のための支援金を公的に補助したりして、彼らの犠牲(規制や高い輸入関税によって守られていた既得権益を失うこと)を和らげる政策がとられることが多い。しかし、そうした政策がとられるかどうかは、生産者が失う損失の程度に依存する。
さまざまな既得権益を守る規制が緩和され、輸入関税が引き下げられれば、規制緩和や輸入関税の引き下げで損失を被った人も、他の多くの規制緩和や輸入関税の引き下げによって、消費者として利益を得、全体として見れば、損失以上の利益が得られる。
したがって、規制緩和のたびに所得補償をしたり、転職を支援するだけでなく、理由にかかわらず所得が低下した人を支援するセーフティネットを整備することが不可欠である。
岩田 規久男
前日銀副総裁