失業者への支援の在り方は、各国でかなり異なる。ここでは、高福祉国家・スウェーデンの労働政策を例に、本当に「就職しやすい環境づくり」とはどのようなものか、前日銀副総裁・岩田規久男氏が解説していく。 ※本連載は、書籍『「日本型格差社会」からの脱却』(光文社)より一部を抜粋・再編集したものです。
「基礎年金を受給できる専業主婦」高福祉国家には“存在しない”ワケ ※写真はイメージです/PIXTA

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「働かなければ健康保険も年金給付も受けられない」

著者は長い間、日本のハローワークは職業を紹介したり雇用保険料を支払う仕事が中心で、失業者のスキルをアップしたりする職業訓練的側面が弱いのではないかと危惧していた。

 

それに対してスウェーデンの労働政策は、連帯賃金政策と積極的労働市場政策とで構成される。

 

前者は、労使の中央賃金交渉に当たって個々の産業や企業の違いを超えて、「同一労働・同一賃金」を原則とする政策である。

 

この政策が文字通り機能すれば、労働生産性の低い企業では生産性を上回る賃金を払わなければならない。そのため、そのような産業では企業の退出が起こり、産業そのものが縮小する。一方、労働生産性が高い産業では、労働生産性以下の賃金を払えばよいから、大きな利潤が生まれる。

 

このようにして、労働生産性の低い産業は縮小し、労働者は拡大する労働生産性の高い産業に吸収される。この意味で、連帯賃金政策は労働生産性向上政策でもある。

 

しかし、低生産性産業部門で失業した人が高生産性産業部門でただちに働けるわけではない。それは、高生産性部門で要求される能力や技術が、低生産性部門のそれらとは大きく異なるからである。

 

そこで、スウェーデンでは失業者に職業訓練に関する各種プログラムに参加させ、それでも就職できなかった場合にだけ、雇用保険から失業給付を支給することを原則とする政策がとられてきた。

 

これを積極的労働市場政策という。それに対して、失業者に失業手当を支払うだけの政策を消極的労働市場政策という。

 

積極的労働市場政策の考え方は、働くことを優先し、働かなければ健康保険も年金給付も受けられないという、スウェーデン型高福祉国家の基本的な考え方に根ざしている。

 

日本のように、妻が働かなくても夫が厚生年金や共済年金に加入していれば、保険料を支払わなくても基礎年金の給付を受けられるとか、年収が150万円以下であれば、厚生年金に加入しなくてもよいといった制度では、そもそも高福祉国家は成立しないのである。

 

また、失業者に受動的に失業手当を支給するよりも、彼らの就業能力を高めたほうが、本人にとっても社会にとっても望ましい。