現行の生活保護制度は給付水準がかなり高めに設定されており、生活保護者たちを「働かせる気がない」といえる。ここでは、どうすれば改善できるのかについて、前日銀副総裁・岩田規久男氏が解説する。 ※本連載は、書籍『「日本型格差社会」からの脱却』(光文社)より一部を抜粋・再編集したものです。
「生活保護を受けているほうがはるかに楽」…「貧困のワナ」に陥る日本社会からの脱却 ※写真はイメージです/PIXTA

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「生活保護から抜け出そう」という気になれないワケ

夫婦2人・子1人(夫33歳、妻28歳、子供4歳)で東京都区部に居住する場合の最低生活保障水準は月額約23万円、年額約276万円(生活扶助に住居扶助を含む)である(厚生労働省資料より)。

 

しかも、社会保険加入はほぼ免除され(介護保険は生活保護費から保険料を拠出している)、医療費は全額補助される。働かずに、これだけの最低生活保障を受けられるなら、ワーキングプアよりも生活保護世帯になったほうがはるかに生活水準は上昇する。

 

現行の生活保護制度は、就労することを基本原則としていない。

 

厚生労働省はこの点を反省して、2013年度から、生活保護制度に就労・自立に向けた取り組み(生活保護受給者等就労自立促進事業)を導入し、就労自立給付金、勤労控除、就労活動促進費の補助等の制度を取り入れた。

 

就労自立給付金は、保護受給中の就労収入のうち一定額を積み立て、保護廃止時に支給するものであり、八田(2009)や鈴木(2012)(※)などがかねてから提案してきた制度である。それまで、生活保護世帯はそれから抜け出たときに、預金をまったく持たないという不安定な状況に置かれていたから、この制度の導入は望ましい。

 

しかし、上限が単身世帯10万円、多人数世帯15万円と極めて低い水準に設定されており、このような少額の預金では「貧困のワナ」から抜け出すことは困難である。

 

勤労控除も就労して20万円を得ても3万3600円でしかない。これは勤労所得に83.2%もの限界税率で税金を課すのと同じである。日本の1億円を超えるような高給与所得者でも、限界税率は住民税を含めても55%である。しかもこの給与所得者には195万の給与所得控除(2021年度から)が適用される。

 

就労支援事業にしても参加率は35.8%でしかない(2017年度)。これは支援事業への参加が強制でなく、任意だからである。就労活動促進費の補助も月5000円で、原則6ヵ月までと少額である。

 

以上のように、厚生労働省は生活保護制度を就労自立支援型に改革したというが、本気度が感じられず、まるでいつまでも生活保護を受けていなさい、と言わんばかりである。同省が本気でなければ、生活保護受給者も生活保護から抜け出そうと本気にならないだろう。