最低賃金の引き上げは貧困対策となる一方、失業率を上昇させると懸念されてきた。日本では最低賃金が高くなると、若年層のような弱い立場にいる人に雇用喪失の可能性が高くなるという実証結果が出ている。前半では韓国を参考とし、ひいては最低賃金と失業率の関係について、前日銀副総裁・岩田規久男氏が解説していく。 ※本連載は、書籍『「日本型格差社会」からの脱却』(光文社)より一部を抜粋・再編集したものです。
「最低賃金引き上げ」のデメリット…韓国で「16.4%上昇」したその後 ※写真はイメージです/PIXTA

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韓国「急激な最低賃金の引き上げ」で失業率に変化

最低賃金について、韓国が2018年に16.4%、19年に10.9%も急激に上げたことが話題になった。この2年続きの最低賃金の引き上げで、韓国の19年1月の失業率は18年の3.8%よりも上がって4.4%になり、韓国の最低賃金の急激な引き上げは、大量の失業者を生み出して大失敗だと言われた。

 

しかし、時間がたってみると、19年の失業率は3.8%に落ち着き18年と変わらなかった。

 

そのため、私がメールで受け取ったアトキンソン通信は、最初、

 

「最低賃金を賢く引き上げ、経営者がパニックにはならず、ショックを与える程度に引き上げるのが効果的だという説です。アメリカのある分析によると、12%以上の引き上げは危険な水準であるとされています。韓国政府も事前にこの分析を読んでいれば、2018年のように最低賃金を一気に16.4%も引き上げるという、混乱を招く政策を実施することもなかったのではないでしょうか」

 

と述べていたが、その後、「韓国では第1四半期に月の失業率が上昇する傾向があり、最低賃金の雇用への影響は短期的でなく、長期的に見なければならない」と意見を修正した。

 

しかし、韓国の失業率は慎重に見なければならない。

 

Schauer(2018)の研究によると、韓国の雇用市場は、雇用が極めて強く保護された正規雇用者と、雇用が保護されず社会保障制度の恩恵を受けられない非正規雇用者とから構成される二重構造になっている。この点は日本も似ているが、韓国はそれ以上の二重構造である。

 

非正規雇用は、一時的雇用、パートタイム雇用、および自営業から構成される。雇用全体に占める割合(2016年)は、一時的雇用21.4%(OECD平均11.2%)、パートタイム雇用10.9%(OECD平均16.7%)、自営業25.5%(OECD平均15.8%)で、一時的雇用と自営業が突出して高いという点に特徴がある。このうち、自営業の家族労働者は賃金を得ていない。