リーマンショックのときの「派遣切り」や「雇い止め」の原因は、「新自由主義」の下での規制改革にあると考える人々がいる。しかし、派遣解禁などの規制緩和こそが「消費者の利益を増大させ、雇用を増やした」のだと前日銀副総裁・岩田規久男氏は解説する。 ※本連載は、書籍『「日本型格差社会」からの脱却』(光文社)より一部を抜粋・再編集したものです。
「雇用が悪化した理由」の“誤解”…タクシー規制緩和は、運転手の生活を「滅茶苦茶にした」か【前日銀副総裁が解説】 ※写真はイメージです/PIXTA

自称リベラルは「規制改革は悪」と宣伝しているが…

リーマン・ショックのときの「派遣切り」や「雇い止め」を「新自由主義」の思想の下での規制改革に原因があるとして、規制改革に反対したり、1995年頃から進んだ規制改革が非正規社員比率の上昇の原因だと考えたりすることは、消費者や多くの雇用者の利益を犠牲にして、一部の人や企業の既得権益を守ることである。

 

自称リベラルに代表される人々は、「新自由主義」に「邪悪なモノだ」というレッテルを貼り、規制改革は「新自由主義」による「弱者いじめ」の政策だと宣伝して回っているが、そろそろ物事を客観的に見るべきときである。

 

「新自由主義は悪=規制改革は悪」という等式で物事を語ることは、それこそ自称リベラルが非難してやまない「印象操作」である。

 

すでに例として挙げたタクシーの参入規制の緩和は、他の地域からの参入規制に守られて、地方よりも高い賃金を得ていた東京の運転手の賃金を引き下げたと思われるが、この参入規制の緩和は、3つの利益をもたらした。

 

第一に、タクシー運賃の値下げや京都のタクシーに典型的に見られるような安全運転などによって消費者の利益が増加したことである。

 

第二に、高齢者の運転手雇用の増加であり、第三に、東京以外の地域の運転手の賃金上昇である。

 

このように、規制緩和は既得権益をなくし、消費者の利益を増大させ、雇用を増やし、東京以外の運転手の賃金を引き上げることにつながったのである。

「消費者全体の利益を考える」視点

東京のタクシー運転手も消費者である。したがって、他の規制改革や自由化から、彼らも消費者として大きな利益を得ている。

 

例えば、2019年の日本のカロリーベースの食料自給率(1人1日当たり国産供給熱量÷1人1日当たり供給熱量)は38%である。これは残りの1人1日当たり供給熱量である62%は輸入食料品によってまかなわれていることを示している。

 

豆類、野菜、果実、肉類、魚介類の自給率は、1965年度は、それぞれ、25%、100%、90%、90%、100%だったが、2018年度は、それぞれ、7%、78%、38%、51%、55%である。これらの数値から、いまやわたしたちが毎日食べているもののほとんどは輸入品であることが分かる。

 

このように食料輸入品が大きく増加したのは、これらに対する輸入量制限規制が大幅に緩和され、輸入関税が大幅に引き下げられたからである。こうした規制緩和と関税の大幅引き下げがなかったならば、わたしたちはいまでも高価格で種類の少ない食料品を消費するしかなく、ずっと貧しい食生活を送っていたはずである。