日本の年金制度は、賦課方式に加え、一部が積み立てられ次年度以降の年金支給に充てられる方式をとっている。そして現在は、これまでに積み立てられてきた保険料を取り崩している段階だ。今後積立金がゼロになれば、政府はどのような手段をとるのだろうか。前日銀副総裁・岩田規久男氏が解説していく。 ※本連載は、書籍『「日本型格差社会」からの脱却』(光文社)より一部を抜粋・再編集したものです。
厚生年金の積立金「31年度には枯渇」…「年金が減るのか」「保険料・消費税が増えるのか」 ※写真はイメージです/PIXTA

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年金の「積立金」、2030年代には「ゼロ」になる

社会保険料の引き上げと国庫負担(税金)を少なくするためには、積立金を取り崩すしかない。

 

鈴木亘学習院大学経済学部教授(※後述)は、年金純債務(※)や積立金がどのような状況にあり、今後どのように推移していくかをシミュレーションしている。

 

※ 政府が支払うことを約束している年金額から、積立金を引いた金額が純債務となる。

 

このシミュレーションによると、2010年度の厚生年金、共済年金および国民年金の積立金合計は183兆円で、年金純債務は737兆円と見込まれる。

 

鈴木はその後の積立金の取り崩しを考慮して、12年時点で、750兆円程度の年金純債務が存在すると考えておくことが無難であるとしている。

 

それ以後については、景気回復が相当進むという明るいシナリオで推測しても、厚生年金の積立金は2031年度に、国民年金は35年度に、それぞれゼロになる。

 

鈴木の試算は、その後のアベノミクスの株高が積立金に与えた効果が含まれていないが、20年から新型コロナウイルス感染症問題が発生しているから、積立金がゼロになる年度は現在でもあまり変わらないであろう。

 

それに対して、小泉政権時代の2004年に「100年安心プラン」が作成され、政府は積立金は今後100年間(具体的には、2100年度まで)枯渇しないと宣言した。

 

しかし、実際は、政府の想定通りにはいかず、例えば04年に改正された年金制度では、12年度の厚生年金と国民年金の積立金合計は168.8兆円と推測されていたが、実際は119.4兆円で、推測値よりも29%も減少している。

 

このように、政府の想定通りに進まなかった主たる要因は、デフレ下では「100年安心プラン」を維持するために用意された「マクロ経済スライド制」を適用しなかったことと、想定以上の期間デフレが続いたことにある。

 

こうした積立金の過大評価に直面して、厚生労働省は2009年に新たなシミュレーションを実施し、厚生年金の積立金は31年度には枯渇することを認めた。