今回は、前回に続き通貨の3つの機能のうち、残り2つの「価値の貯蔵手段」「価値・取引の表示手段」から人民元の国際化の現状を見ていきます。

外貨準備金における人民元の割合も増加

通貨の機能の2つ目は「価値の貯蔵手段」です。通貨バスケット移行後、人民元相場は大幅に上昇し、価値の貯蔵手段としてのニーズは高まっています。オフショア人民元預金は昨年、総額が2兆元近くに達しました(1元=0.16USドル 2015年6月11日現在)。香港が最大の市場で約1兆元と5割を占めます。香港での人民元預金の増加のスピードは香港ドルやその他外貨預金より著しく、過去5年間で3倍を超える勢いです。
 
香港以外では台湾(300億元)、シンガポール(260億元)などが大きいところです。預金はアジア地域中心で、なお広がりは欠きますが、ルクセンブルク(200億元)、ロンドン(50億元)など、その他の国々でも増加の兆しがあります。
 
世界各国の中央銀行が保有する外貨準備は、依然として米ドル(約6割)、ユーロ(約2割)に集中しています。しかしリスク分散、ポートフォリオの多様化が進む中で、人民元を準備通貨に組み入れる動きが出始めており、現在その数は50か国以上にのぼります。
 
早くは2011年、ナイジェリアが将来的に外貨準備の10%を人民元にしていく意向を示しましたが、2013年頃から、豪(将来的に人民元割合を5%にまで高めていく)、南アフリカ(3%にしていく)、ボリビア、ベラルーシなど、多くの国から同じ意向が伝えられ始めました。豪州準備銀行はその後昨年7月、すでに約3%を人民元で保有していることを公表しました。

 

 

 
その他10月、欧州中央銀行(ECB)が人民元への投資を検討しているとの情報が流れ、中国内では人民元国際化が飛躍するきっかけになると期待をもって受け止められています。
 
2015年3月、英大手金融グループHSBCが世界の72の中央銀行(保有外貨準備5.9兆ドル、世界の48%)を対象に行った調査によると、外貨準備に占める人民元割合は、2015年末2.9%、2020年6.9%、2025年10.4%、30年12.5%と次第に高まると予想されています。アジアの中央銀行の中には、2030年までに人民元保有割合は50%にまで高まるとする強気の見方もあります。

決済手段から投資・貯蓄へ国際化が波及

最後は「価値・取引の表示手段」としての通貨です。理論的には、価値の交換・支払手段と表示手段は別の概念ですが、現実には、交換・支払の通貨と表示通貨は通常同一で、交換・支払手段としての国際化が進めば、表示手段としての国際化も進みます。
 
石油、金等、国際商品市場における価値の表示は、国際取引慣行もあって、米ドル建て中心ですが、昨年9月、上海自由貿易地区内に人民元建て取引が行われる国際黄金取引所が創設され(中国は世界最大の金消費市場)、本年2月には、ロンドンでの建値設定(gold fix)に対抗して、上海で人民元での建値設定を導入するとの情報が流れています。同取引所は銀の取引、また金のオプション取引も開始、香港交易所も昨年12月から、アルミニウム、銅、亜鉛の人民元建て商品先物取引を開始しています。
 
総じて、資本取引規制が残る中で、内外を遮断するため、オフショア市場、特に香港を梃にしての国際化ですが、香港以外での国際化の進展も見え始めています。また貿易決済中心から、投資や貯蔵といった面にも国際化が波及しつつあります。そして、ここへ来て加速している点が特徴的です。
 
人民大学国際貨幣研究所、中国銀行は各々、人民元の国際化の程度を示す人民元国際化指数(RII)、クロスボーダー人民元指数(CRI)を発表していますが、いずれの指標でも2013年後半以降、国際化が加速しています。

たとえばRIIは、貿易、金融(債券、ローン、直接投資)、各国外貨準備の3分野における人民元使用割合を均等ウェイトで指数化(0~100)したものですが、2009年0.02が2014年6月1.96へと上昇、昨年末には2.4~3.0にまで上昇した可能性があります(人民大学校長、2014年7月、「人民元国際化報告2014」発表の際)。同研究所は、昨年4月の時点では、昨年末にRIIが1.88まで上昇すると見込んでいたことからも、このところの国際化の加速が大方の予想を超えていることがうかがえます。
 
同研究所はその他の通貨のRIIも推計しており、2013年、米ドルは52.96と安定、ユーロ、英ポンドは各々30.53、4.3とやや上昇する一方、円は4.27と若干低下傾向にあります。これらを基に、学者らからは、5年以内に、RIIは英ポンド、円を抜き、米ドル、ユーロ、人民元の「三駕馬車」、三頭立て馬車体制になるとの見通しが出されています。これは上記、人民銀行研究チームの工程表のタイムスパンとほぼ一致するものです。
 
次回は日本のかつての「円の国際化」の経験も踏まえ、人民元国際化にはずみをつける諸要因を解説します。

 

 

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