取引の交換・支払い手段としての通貨
通貨には(Ⅰ)取引の交換・支払手段、(Ⅱ)価値・取引の表示手段、(Ⅲ)価値の貯蔵手段という3つの機能があります。通貨が「国際化」するというのは、この3つが実際に、国際社会で幅広く使用されることです。まずは(Ⅰ)取引の交換・支払手段からみていきます。
国境を越える貿易や投資の決済・支払のための人民元の使用は急増しています。中国のクロスボーダー取引に占める人民元は昨年9.95兆元(1元=0.16USドル 2015年6月11日現在)、全体の25%にまで上昇、うち経常勘定における人民元決済額は2009年の36億元から、昨年6.55兆元(対前年比41%)と大幅な伸びを示しました。
昨年の人民元による直接投資は、対外が1866億元、対内が8620億元と合計で前年比2倍、ポートフォリオ投資について、11年に導入された人民元適格外国機関投資家制度(RQFII、国外投資家にオフショア人民元を利用しての中国本土の株式や債券への投資を認めるもの)の承認枠は昨年末累計で、10か国・地域、8700億元に達しました。
中でも大半を占める香港は、昨年、当初割当てられた2700億元の枠を8月にはほぼ使い尽くし、北京に枠拡大を求めたと伝えられています。今年1月、スイスで開催されたダボス会議の際には、新たにスイスに対し500億元の投資枠が設定されました。
香港オフショア市場での人民元建て債券市場規模も、2007年当初の100億元程度から、14年末には4000億元近くまで拡大、当初規模が小さかったことから「点心債」と呼ばれてきましたが、今や「海鮮大餐債」になりつつあると言われています。
香港での発行が中心で、発行体、投資家とも大半が中国と、なお国際的な広がりは欠きますが、13年から台湾での発行(フォルモサ債)が始まり、昨年は、国家開発銀行や中国建設銀行等大手商業銀行が相次いでロンドンやフランクフルトなど欧州市場で起債しました。昨年10月、英国が人民元建て国債を発行したことも注目されています。
円に迫る人民元の決済利用
国際銀行間通信協会(SWIFT)によると、世界における人民元の決済利用は急速に増加、12年末世界14位、13年末8位、昨年末以降、春節の影響があった2月を除くと第5位で、円に迫る勢いです。この結果は、人民元が既にemerging(新興)ではなく、business as usual(常用)通貨になっているとのSWIFTの評価とともに、中国内でも大きく伝えられています。
L/C(信用状)市場での使用では、すでに13年から世界2位、15年1月にはシェアは9.43%まで高まりました。また、対中取引の10%以上を人民元決済で行っている国(一般に「人民元の河を渡る」ラインと言われる)は、13年4月から本年3月にかけて19か国増え、56にのぼります。中でも、台湾、韓国等アジアを除くと、仏、英、伊等欧州諸国、およびカナダが人民元決済を増やしていることに特徴があります。
次回は価値の貯蔵手段としての通貨の機能を見ていきます。