「情より理を取る」4大メジャーへのこだわり
■一流選手は1人で試行錯誤しない
不調に陥ったとき、そこからの脱出の方法は、選手によってさまざまです。ひたすらボールを打って感覚を取り戻す選手もいますし、いろいろなコーチに話を聞いて回る選手もいます。
ケプカはたびたび複数のコーチに意見を求めています。2020年3月にフロリダからわざわざラスベガスまで出向いて、専属スイングコーチであるクロード・ハーモン3世の父、ブッチ・ハーモンに指導を受けています。もともとケプカはブッチとハーモン3世の2人に指導を受けていましたが、不調の原因を探るため、ツアーを引退していたブッチにセカンドオピニオンを請い、新たな視点を得ようとしたのでしょう。
ゴルフコーチというのは、不調の原因を探る医師のようなものです。どんなに有能な医師でも、患者が病気を治したいと思わなければ治療はできません。患者が自らを改善するために、話を聞きたいという姿勢を見せることがすべてのはじまりとなります。しかし、人の話を素直に、謙虚に、偏見を持たずに聞くということは、簡単そうでなかなかできないものです。さらにその人に実績があればあるほど難しくなるものです。
ケプカは優秀なコーチを集め、素直に彼らの話に耳を傾け、最善の策を実行することでメジャートーナメントで結果を出してきました。状況によって、長年の付き合いのあるかかりつけ医と、セカンドオピニオンを使い分けて現状分析できることこそが、ケプカの強さの源泉だと思います。
タイガーやミケルソンも壁にぶつかったときに、1人で試行錯誤をしませんでした。優秀な人材を見つけ、彼らの話に耳を傾けて自らの殻を破ってきたのです。
彼らのように複数のメジャーを制するためには、優れた人物の話に耳を傾ける「素直力」が必要になるのです。
■合理性を重視する「チーム・ケプカ」
2年でメジャーを4勝したケプカの戦略的な戦い方は、ある意味、理想的ですが、誰もができるわけではないという点で驚異的と言えるでしょう。それだけピークを合わせる技術が超一流ということです。
もちろん、ケプカははじめからメジャーで勝つことに絞った戦略ではなかったはずです。プロになりたての頃はいくつものトーナメントに出場して腕を磨いたことでしょう。ある程度の経験を積み、トーナメントコースの知識を得て、自分の技術力を高めなければ、いきなりメジャーで優勝などできるわけがありません。ノウハウや技術の蓄積の末、射程を合わせられるようになったのだと思います。
チーム・ケプカは、本物のプロ集団であり、チームを維持するには相当高額な運営費がかかっているはずですが、ケプカは効率的に結果を出すことを求めました。
彼はコストをかけてベストなチームをつくれば最高の結果が得られると発想しているのです。とても合理的なので、どれほど仲が良くても結果が出せなくなったコーチとは契約しません。2020年11月にスイングコーチのクロード・ハーモン3世、2020年7月パッティングコーチのジェフ・ピアースとも決別しています。情より理を取る。それがケプカの流儀なのかもしれません。
吉田 洋一郎
ゴルフスイングコンサルタント