日本に居住する日本人がオーストラリアの不動産を購入することは、オーストラリアの法律上可能です。しかし「居住用不動産(一戸建て、タウンハウス、マンション等)」と「商業用不動産(オフィス、店舗、ホテル等)」で、購入できる不動産の種類(新築・中古、地域など)や、法律・税務上の手続・負担が大きく異なる点に注意が必要です。本記事では、主に居住用不動産について見ていきます。日本と豪州の弁護士資格を保有し、豪州で10年の弁護士キャリアを持つ、鈴木正俊氏が解説します。

外国人に課される追加負担

(A)不動産取得時の追加負担

オーストラリアの居住用不動産を購入する場合、「不動産譲渡税」(Transfer Duty:印紙税とも呼ばれています)、登記手続費用、弁護士費用等がかかります。この中で金額が大きいのは不動産譲渡税であり、不動産の購入価格の4~6%程度(州や金額によって異なります)を、購入時に購入者が支払います。外国人が購入する場合、これらの費用に加えて、「FIRBの申請費用」と「追加不動産譲渡税」がかかります。

 

「FIRBの申請費用」は、購入価格が100万豪ドル以下の居住用不動産であれば6,350豪ドル、100万豪ドル超200万豪ドル以下であれば1万2,700豪ドル、200万豪ドル超300万豪ドル以下であれば2万5,400豪ドルとなっています。ただし、当初から外国人に多く販売することを見込んで開発されている大規模マンションでは、開発業者が外国人の購入者のために予めFIRBの承認を取得してくれている場合があり、そのような物件を外国人が購入する場合には外国人がFIRBの申請をする必要はなく、FIRBの申請費用も支払う必要がありません。

 

「追加不動産譲渡税」は、購入者が外国人である場合には、通常の不動産譲渡税に加えて、不動産の購入価格の7~8%(州によって異なる)が課されるというものです。この追加不動産譲渡税は、外国人によるオーストラリアの居住用不動産への投資を抑制するために導入されたものです。

 

追加土地譲渡税の税率は、シドニーのある「ニューサウスウェールズ州」/メルボルンのある「ヴィクトリア州」/ホバートのある「タスマニア州」では8%、ブリスベン、ゴールドコースト及びケアンズのある「クイーンズランド州」/パースのある「西オーストラリア州」/アデレードのある「南オーストラリア州」では7%となっています。キャンベラのある「オーストラリア首都特別地域」とダーウィンのある「北部準州」では追加土地譲渡税は導入されていません。

 

(B)不動産保有時の追加負担

オーストラリアの不動産を保有する際には、市税(Council Rates)、「土地所有税」(Land Tax)、管理組合費(マンションの場合)等がかかります。このうちの土地所有税は、所有不動産の政府評価額の0.5~2.5%程度(州や金額によって異なる)の税金を毎年課されるというものです。外国人がオーストラリアの不動産を所有する場合には、これらの費用に加えて、「追加土地所有税」を支払う必要があります。なお、ダーウィンのある北部準州では例外的に土地所有税と追加土地所有税が存在しません。

 

「追加土地所有税」は、所有不動産の政府評価額の0.75~2%(州によって異なる)を通常の土地所有税に加えて支払わなければならないというものです。追加土地所有税の税率は、ニューサウスウェールズ州/ヴィクトリア州/クイーンズランド州では2%、オーストラリア首都特別地域では0.75%となっています。西オーストラリア州/南オーストラリア州/タスマニア州では追加土地所有税は導入されていません。

 

また、外国人が所有している不動産を1年のうち半年以上の期間、居住していないか、または賃貸に出していない場合、「空室税」(Vacancy Fee)が課されることになります。空室税の金額(年額)は、上記(A)で説明した「FIRBの申請費用」と同額になります。購入した居住用不動産を賃貸に出さず、別荘として年に数週間程度利用する目的で保有する場合には、空室税を支払わなければなくなります。

 

さらに、ヴィクトリア州では、メルボルンの都心及びその近郊の居住用不動産を1年のうち半年以上の期間、居住していないか、または賃貸に出していない場合、Vacant Residential Land Taxという特別な「土地所有税」が通常の「土地所有税」と「追加土地所有税」に加えてさらに1%上乗せして課されることになります。

 

(C)不動産売却時の追加負担

外国人が所有していたオーストラリアの居住用不動産を売却する際には、売却益についてオーストラリアの所得税(累進課税で最大45%)が課されることになり、オーストラリアで売却益について税務申告をして納税することが必要になります。

 

しかし、これはオーストラリア居住者であっても同じであり、外国人に対して追加で負担が課されるというものではありません。ただ、オーストラリア居住者は自宅として使用している居住用不動産を売却した際の売却益については所得税が免税されるという優遇措置があり、オーストラリアに在住していない外国人はこの優遇措置を受けることはできません。オーストラリア居住者に認められている優遇措置を受けることができないという点で、外国人はオーストラリア居住者に比べて不利であるともいえます。

購入の際は、課された条件をよく理解し、慎重な判断を

上記のとおり、外国人はオーストラリアの居住用不動産を購入することはできるものの、購入できる物件は新築物件に限られ、取得・保有に際して様々な追加負担を課されることになり、オーストラリア居住者と比較して、不利な条件に置かれていることは認識しておく必要があります。

 

外国人がオーストラリアの居住用不動産に対して投資をして自分が求める投資収益を達成できるか否かを検討する際には、上記のような不利な条件を考慮に入れたうえで、慎重に判断をする必要があります。

 

他方で、安定した先進国であるオーストラリアで不動産を保有しておきたい(資産を海外に持っておきたい)、またはオーストラリアに行ったときに住める生活拠点を持っておきたいという目的を主としてオーストラリアの居住用不動産を購入するのであれば、上記のような投資収益の観点からの検討はあまり重要なポイントではないかもしれません。

 

実際にオーストラリアの居住用不動産を購入する方は、投資収益をメインの目的とする方よりは、上記のような海外への分散投資や海外の生活拠点確保をメインの目的として購入される方が多い印象です。

 

※本記事の中には読者が理解しやすくするために複雑な法律・税務の規定を簡略化して説明している箇所が多くあります。実際に投資を行う際には、弁護士・会計士といった専門家から個別具体的な事情に基づいたアドバイスを受けるようにしてください。本記事に記載されている情報に依拠して損害を被ったとしても筆者は責任を負いません。

 

 

鈴木 正俊
グリーン・ビュー法律事務所
T&K法律事務所 外国駐在弁護士

 

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