現在、9割の中小企業経営者が後継者不在という問題を抱えています。かといって廃業を選んでしまうと、借金だけが自分と親族に残ってしまう・・・。そんなオーナー社長の救いの手となるのがM&Aです。本連載では、M&Aを成功させ、豊かな老後資金を得る方法を説明します。

余裕をもった事前準備が必要となるM&A

この連載では、売り手のオーナー社長に向けて、第二の人生のためにも必要な豊かな老後資金を確保して物心両面でハッピーになるための方法について述べていきます。

 

M&Aの売却価格が決まる過程では、「経済的価格」への落とし込みが重要です。この「経済的価格」を、事前の準備などで底上げしていくことで、会社の売値を高めていくことが可能となります。

 

売却価格が高ければ高いほど、オーナー社長の手残りも増え、第二の人生のための豊かな老後資金が増えるわけですから、しっかりと準備を行い、時間と精神面に余裕をもってM&Aに臨むことが必要です。

 

具体的には、以下のような点に着目します。

 

①ビフォーM&Aで経済的価格を高める。

②業界を取り巻く環境などを注視する。

③国内外の経済情勢や法制の行方などを注視する。

 

最初の①は、組織を強化する、売上を向上する、利益率を改善させる、福利厚生費を圧縮する、本業に関係の薄い不動産などを処分し現金化しておくといった手法で、決算書の数値を買い手に訴求できるように好転させる作業です。併せて、本業の事業サイクルや受発注の様子などにもメスを入れ、ムダの削減や利益率の向上を目指すことも大切になってきます。

外部の環境にも目を向ける

ビフォーM&Aは、いわば自社の内部の努力ですが、M&Aで会社を売ろうとするとき、外部の状況にも目を向け、最適な売りどきを計っていくことも必要です。

 

②は、例えば関連業法の法改正(見込みを含む)や業界を取り巻く環境の変化などです。直近の例では、高速バス事故などが原因で、遠距離の高速バスの運行について、旅行会社の責任が重くなり、運転距離などにも制限が課されることとなりました。規制の強化に対応ができない旅行会社や業界の先行きに嫌気をさした旅行会社、バス会社の間で、事業からの撤退や清算・廃業が相次いだと報じられています。

 

このようなときに、仮にバス運行などを手がける会社が売りに出る場合、急いで売ろうとすると買い叩かれる恐れもあります。また、同業はどこも苦しい会社が多いこともあり、いっそ異業種の企業に売却を打診するほうが有利という判断もあるかもしれません。

 

また、苦労ばかりが多くて事業としてはうまみが少ないと思われがちだった福祉や介護、訪問診療などの分野では、保険点数の上乗せが実施されたり今後の上乗せが予定されたりしていることから、新たに触手を伸ばそうとする買い手企業が現れるかもしれません。いまから数年後にかけて、関連する業種や業態では、絶好の売りどきを迎えるかもしれないのです。

国内外の経済情勢への目配りも忘れない

さらに、③のような大局観も併せ持てるとベターです。例えば、08年のリーマンショックからサブプライムローン問題と続く不況、信用不安の中で、国内外の不動産市況は低迷し、株価やリート指数は下落、住宅の売れ行きも大きく落ち込みました。そんなタイミングで、不動産や建設関連の会社が売りに出れば、価格は期待できません。

 

13年現在はどうでしょう。いわゆるアベノミクス効果などもあってか、東証リート指数は00年代後半の底値から倍近くに回復し、自動車メーカーの業績もV字回復しています。わずか5年前後の間に、業界を取り巻く環境は劇的に変わりました。いまは逆に、売りの好機ともいえる状況になっているのです。

 

日ごろからどのような会社がどのような目的で自社に興味を示すか、考える習慣を持っておくことが大切であり、マッチング先のイメージを広げるための提案でもありますが、そのような思考のトレーニングは、最適な売りどきを見計らうためにも有効なことなのです。

 

以上の①~③を、すべてオーナー社長が自力で行うことは現実的には困難ですし、精度のうえでも限界があるものです。そこで、M&Aコンサルティング会社のアドバイザーなどと話し合い、自社を客観視しておくことが大切になってきます。最適な事業承継の方法について相談と準備を行い、仮にM&Aを利用する場合は最適な売りどきを模索するのです。

 

余裕を持った事前の準備があってこそ、M&Aの成功を手繰り寄せ、豊かな老後資金を手にする可能性も高まるのです。

本連載は、2013年9月20日刊行の書籍『会社を息子に継がせるな』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

会社を息子に継がせるな

会社を息子に継がせるな

畠 嘉伸

幻冬舎メディアコンサルティング

現在、9割の中小企業経営者が後継者不在という問題を抱えています。息子がいない、いても“家業"に興味を示さない、あるいはオーナー社長が手塩にかけてきた会社を任せられるほどの才気がない。だからといって、廃業を選んでし…

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