少子高齢化が叫ばれて久しい日本社会。「成長して所得が高くなると、どの国でも出生率は下がるものだ」とも言われますが、実際には賃金格差の拡大による影響が大きいようです。ここでは、前日銀副総裁の岩田規久男氏が、他国の政策やデータと比較しながら、日本の少子化について解説します。 ※本連載は、書籍『「日本型格差社会」からの脱却』(光文社)より一部を抜粋・再編集したものです。
「所得が低すぎて、子育てなんて…」他国の“政策”と比較した、日本社会の恐ろしい行く末 ※写真はイメージです/PIXTA

「日本と韓国」「フランスとスウェーデン」にある大きな差

[図表3]は、合計特殊出生率は過去数年間の1人当たり実質成長率に影響されると考え、いくつかの期間に分けて、その期間における平均的な実質成長率と平均的な合計特殊出生率との間の関係を、日本と似た傾向を示している韓国と日本、および家族政策の影響で合計特殊出生率が回復したフランス、もともと家族政策が充実しているスウェーデンについて、示したものである。

 

注)相関係数は各期間の1人当たり実質成長率と合計特殊出生率との相関係数 出所)1人当たり実質成長率はIMF World Economic Outlook Database,October 2019、合計特殊出生率はWorld Bank Databaseより。
[図表3]1人当たり実質成長率と合計特殊出生率との関係 注)相関係数は各期間の1人当たり実質成長率と合計特殊出生率との相関係数
出所)1人当たり実質成長率はIMF World Economic Outlook Database,October 2019、合計特殊出生率はWorld Bank Databaseより。

 

1980年以降、日本と韓国については、1人当たり実質成長率が低下すると、合計特殊出生率が低下するという、高い正の相関関係が観察される。これは、所得が低すぎる人が多くなり、結婚して子供を育てる(とくに子供に高等・大学教育を受けさせるだけの)経済力がない人が増加した結果であろう。

 

他方、フランスとスウェーデンでは、負の高い相関係数が観察される。フランスの1人当たり実質成長率は、1980年代以降低下傾向にあるが、合計特殊出生率は上昇傾向にあるということである。これは、手厚い家族政策が出生率上昇に貢献しているためであると考えられる。

 

スウェーデンはもともと家族政策が充実している高福祉国家であるため、1人当たり実質成長率は低下傾向にあるが、出生率は1.8人程度で安定している。

 

以上から、日本では、1人当たり実質成長率の低下が少子化の一因になっているが、フランスやスウェーデンのような育児支援を中心とする家族政策を実施すれば、出生率を引き上げることが可能であることが分かる。

 

なお、ドイツとアメリカについても、弱い負の相関が見られるが、統計的に有意ではない。

少子高齢化は「社会保障制度の機能低下」をももたらす

少子化が進む一方、高齢者の寿命が延びて、今後も高齢化が進展すれば、従属人口指数(15歳未満および65歳以上人口の15歳から64歳の生産年齢人口に対する比率)が急上昇すると予想される。

 

日本の従属人口指数は突出して高く、50%近くになっている。そのため2.1人の働き手(現役)が1人の高齢者の生活を支えている。一方、ドイツ、フランス、スウェーデン、イギリスなどのヨーロッパ諸国は3人以上で、アメリカでは4人で1人の高齢者の生活を支えている。

 

日本の従属人口指数は今後ますます上昇すると予想される。

 

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国立社会保障・人口問題研究所の2017年の推計では、中位出生・高位死亡のケースで、30年には、従属人口指数は52.7%になり、1.9人の働き手で1人の高齢者の生活を支えなければならなくなる。さらに、50年になると、従属人口指数は70.3%に達し、1.4人の働き手で1人の高齢者の生活を支えなければならない。そんなことが可能であろうか。

 

可能にするためには、経済成長率を引き上げて、将来の現役世代の所得を大幅に引き上げる必要がある。

 

 

岩田 規久男

前日銀副総裁