“医療紛争の防止”のためにも…「インフォームド・コンセント」の活用で信頼関係を (※画像はイメージです/PIXTA)

適切な医療を行うためには、患者との信頼関係が必要不可欠である。しかしながら、患者の権利意識の高まりとともに、信頼関係を築くことが困難になりつつあると感じる医療従事者も増えている。では、どのように患者と向き合い、どのように信頼関係を築いていけばいいのか。弁護士の渡邊泰範氏に、「インフォームド・コンセント」の重要性や利点を踏まえて語ってもらった。

インフォームド・コンセントによる「医療紛争の防止」

インフォームド・コンセントは、患者の自己決定権を保障する機能のほか、無駄な医療紛争のリスクを減らす機能をも有しています。

 

医療従事者および患者の双方にとって、医療事故の発生は不幸なことです。ここでいう医療事故とは、必ずしも医療従事者にミスがあったということを意味しません。医療従事者がいかに真摯な医療を心掛けても、医療が不確実なものである以上、一定の確率で医療事故が生じてしまうからです。

 

ところが、患者・家族等の中には、医療事故が起きた場合、必ず医療ミスがあったと誤解していることが多く見受けられます。医療や医療従事者を無条件で妄信し、医療事故が起きる可能性すら考えたことがない患者・家族等もいます。このような患者・家族等は想定外の悪しき結果が生じてしまうと、想定外の事態が起きたこと自体に驚き、狼狽し、たとえ医療従事者にミスがない場合であっても、医療従事者に責任があると考えてしまいます。

 

悪しき結果が生じた場合に、患者・家族等が、医療従事者に責任があるのではと疑い出すのは、その悪しき結果を患者・家族等が予測・予期していなかったからであり、当該医療行為に当然に内包するリスクを十分に認識していなかったからです。

 

このような状態に陥った後に、医療従事者が医療の不確実性をいくら説明しても、責任逃れをしているようにしか聞こえません。その結果、無用な医療紛争、ひいては医療裁判にまで発展してしまうケースが多々あるのです。

 

このような医療従事者と患者・家族等の間に存在する認識のズレを予め埋めるのが、インフォームド・コンセントの一つの役割です。

 

すなわち、常日頃から丁寧な説明をして、真の同意を得ながら治療を進めていくことで、医療従事者と患者・家族等の間にあった認識のズレを埋めることができます。そうすることによって、患者・家族等も,医療の不確実性から発生する悪しき結果が生じ得ることを、予め予測可能なリスクと捉えることができます。必ずしも医療従事者のミスから発生するものではないことを理解しているので、無用な医療紛争を防止することにつながるのです。

 

ここでは、医師は、患者・家族等に対して医療が不確実であることを自覚させるだけの質の高いインフォームド・コンセントを実践することが重要なのです。

「先生が一生懸命してくれたのだから仕方がない」とも

適切なインフォームド・コンセントには、無用な感情のもつれによる紛争を防止する機能もあります。

 

適切な医療行為を行うためには、医師と患者・家族等との間に信頼関係が必要不可欠です。医師が専門知識に基づいた適切な説明をして、患者・家族等も十分に納得したうえで、治療を進めていく過程に医療従事者に対する信頼関係が生じます。換言するならば、適切なインフォームド・コンセントは、医療従事者が患者・家族等から信頼を得るための重要な手段となるのです。

 

医師の説明が不十分であれば,患者・家族等との間に構築されるべき信頼関係も不十分なものとなり、悪しき結果が生じた場合には。それまでにあった日々の不満も相まって爆発し、必要以上に負の感情を伴った医療紛争に発展しやすくなります。

 

逆に言うと、医療従事者にミスがあった場合であっても強固な信頼関係があれば、感情のもつれがもたらす不必要な医療紛争を減らすことができるのです。

 

医療は人間が担うものです。どんなに注意しても人間である以上、ミスを完全に排除することはできません。不幸にして、医療ミスによる事故が生じた場合であっても、「先生が一生懸命してくれたのだから仕方がない」などと言ってくれることも少なくありません。ここでは、医療従事者の皆さんがどのように患者に向き合ってきたかが問われているのです。

質の高い医療を提供するために

今回は、インフォームド・コンセントを通じて、どのように患者と向き合い、どのように信頼関係を築いていくべきかについて考えてきました。

 

インフォームド・コンセントは、患者の自己決定権を保障することから発展してきた概念ですが、必ずしも患者のためだけのものではありません。インフォームド・コンセントは、患者・家族等と信頼関係を構築する手段でもあり、無用な医療紛争を減らすための機能をも有していることがお分かりいただけたと思います。

 

質の高い医療を提供して頂くためにも、是非ともインフォームド・コンセントを積極的に活用して頂きたいと思います。
 

 

文京あさなぎ法律事務所 代表 弁護士・弁理士

東京大学農学部卒業、東京大学大学院修了(応用生命化学専攻)、東京大学法科大学院終了。
製薬会社、医療コンサルティング会社勤務経験のほか、医療機器販売会社、ヘルスケア関連会社、医療法人の経営経験を有する。
また、医療法人鉄蕉会亀田総合病院へ出向し、診察、回診、手術の立ち合い、救急搬送、当直等、医師と生活を共にすることで、医療現場が直面する法律問題や現場の苦悩を最前
線で経験した。
現在は、医療業界での豊富な経験を活かし、医療機関への法的支援を積極的に行っている。
ホームページ
http://www.ba-law.jp 
医療トラブルに関するWebサイト
https://balaw-medical.jp

著者紹介

連載弁護士が語る医療機関の法律問題

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