パワハラなど、職場環境の問題を理由とする出社拒否
パワハラなど、職場環境の問題を理由とする場合、会社はまずハラスメントの有無を調査する義務があります。
調査の結果、ハラスメントが判明した場合は、その問題を解消することが必要です。再発防止策として、加害者の人に対して懲戒処分をおこなう、あるいは加害者に被害者に対する謝罪をさせる、加害者と被害者を切り離す配置転換をおこなう、などといった対応が会社に求められます。
一方、会社が必要な対策をとった後、あるいはハラスメントの調査の結果ハラスメントがなかった、という結論に至った場合は、出社拒否は認められません。そのため、必要な対策をとった後も従業員が出勤を拒否する場合、出社拒否は認められないことを従業員に説得し、説明することが必要となります。
新型コロナウイルス感染症の危険を理由とする出社拒否
新型コロナウイルス感染症の危険等を理由とする場合は、緊急事態宣言期間中とそれ以外の期間にわけて対応することが必要です。
■緊急事態宣言期間中の出社拒否
緊急事態宣言期間中は、会社はできる限りテレワークによる対応をすることが要請されています。そのため、テレワークが可能な業務については、従業員が出勤を拒否しているからといって、懲戒処分や解雇をするということはできないと考える必要があります。
また、テレワークが難しい現場業務等で、緊急事態宣言期間中に従業員が感染のリスクを理由に出勤を拒否する場合も、解雇等をするということは許されないのではないかと考えられます。この点についての裁判例はまだ見当たりませんが、参考になる裁判例として以下のものがあります。
参考となる裁判事例
(東京地方裁判所判決 平成27年11月16日)
NHKから業務委託を受けていたフランス人ラジオ担当者が、福島第一原発の事故やフランス大使館による避難勧告を受け、業務を放棄して国外に避難した、という事案です。NHKは職務放棄だということで担当者との契約を解除しました。
裁判所は、当時の状況に照らすと、生命・身体の安全を危惧して国外等へ避難を決断した者について、無責任であると非難することはできないとして、契約解除を無効と判断しています。
この事例は新型コロナウイルス感染症の危険とは若干違うため、すべてが当てはまるわけではないですが、感染症の危険を理由とする出社拒否の場面でも参考になる事案です。
■緊急事態宣言期間終了後の出社拒否
緊急事態宣言期間終了後の出社拒否については、会社が可能な限り感染防止に配慮している場合は、原則として出社拒否は許されないと考えてよいと思われます。
会社内でもマスクの着用を要請したり、あるいは来店客に対してもマスクの着用を要請し、消毒液の設置や、換気も心がけているなど、必要な対応策をとっているにもかかわらず、緊急事態宣言が明けた後も出社を拒否する場合、出社拒否は許されないと考えられます。
そのため、会社からの説得にも応じず、出社拒否を続ける場合は、懲戒処分等も許容されると推測されます。
これまで裁判所は伝統的に、「出勤は従業員の最も基本的な義務」と考えてきました。それはこの新型コロナウイルス感染症の流行の問題があった後も変わっていないだろうと考えられます。