従業員からの未払い残業代請求…「固定残業代制度」を導入していても支払い義務はあるのか?【弁護士が解説】

従業員からの未払い残業代請求…「固定残業代制度」を導入していても支払い義務はあるのか?【弁護士が解説】
(写真はイメージです/PIXTA)

固定残業代制度とは、残業代の見込み額として、残業時間にかかわらず、固定給のなかに含めて定額払いするものです。この制度を導入していれば、残業時間がどれほどになっても払わなくてもいいのでしょうか? 弁護士法人 咲くやこの花法律事務所の代表弁護士の西川暢春氏が固定残業代制度に関するよくある勘違いや注意点について解説します。

「固定残業代」についてよくある相談

固定残業代に関するQ&A

Q 固定残業代を支給していますが、従業員から未払い残業代を請求されました。時間外労働としての手当ては、すでに支払っているので、これ以上支払う必要はないと思います。支払いを拒否することはできるのでしょうか。

A 固定残業代の金額が、実際の残業時間に応じて計算した額が固定残業代の額を超えている場合は、従業員からの未払い残業代請求を拒否することはできません。

 

■固定残業代とは

固定残業代とは、残業代の見込み額として、残業時間にかかわらず、固定給のなかに含めて定額払いされる賃金のことを指します。

※法律上の正式名称ではないのですが、一般的に固定残業代や固定残業手当と呼ばれています。

 

ですから、実際の残業時間に応じて計算した割増賃金の額が、固定残業代の額を超えている場合は、その超過額を支払う必要があります。

 

一方、実際の残業代が見込み額よりも少ない場合、本来より多く残業代を支払うことになります。固定残業代を導入するメリットはあるのでしょうか。

 

■固定残業代を支給するメリットは2つ

1.求人広告で高い給与をアピールしやすい

たとえば、基本給30万円の人が残業代を月5万円もらっている場合、求人広告には、基本給30万円ではなく「基本給30万円+固定残業手当5万円」と書くことができます。

 

これによって、合計35万円が支給されることがわかりやすくなります。加えて、求人広告で高い給与をアピールすることもできます。

 

2.未払い残業代問題の対策にもなる

固定残業代を払うことによって、その分の残業代を払ったことになりますので、未払い残業代の問題が出ないといえます。

 

また、基本給の一部を削って、その部分を固定残業代にあてることで、人件費の総額を増やさず、残業代を減らす目的で導入されることもあります。

 

この方法は人件費の総額が増えないという意味ではいいのですが、基本給を減らすことは、労働条件の不利益変更にあたりますので、裁判になれば効力が認められないケースも多く、注意が必要です。

 

固定残業代を支給することは大きなメリットがあることがわかりました。では、固定残業代を導入することに、デメリットはあるのでしょうか。

 

■固定残業代を支給するデメリット

固定残業代を支給するデメリットは、残業代の単価を増やしてしまう可能性があることです。

 

固定残業代を支給していても、正しく制度設計されていないと、裁判では残業代の支払いとして認定されません。その結果、固定残業代が基本給として扱われ、残業代の単価を増やしてしまいます。

 

弁護士や社会労務士のアドバイスを受けずに設定された固定残業代制度は、ほとんど正しい制度設計ができていないのが現状です。

 

では、固定残業代を正しく導入するためには、どうすればいいのでしょうか。

 

■固定残業代が残業代の支払いとして認められる条件

固定残業代が残業代の支払いとして認められるには、3つの要件を満たす必要があります。

 

1.明確区分性の要件

1つ目は、「残業代に相当する部分」と「所定労働時間に対応する賃金(定時までの賃金)」を明確にわけるという要件です。

 

たとえば、求人広告に「基本給40万円、残業30時間分含む」と記載することが、よくない例として挙げられます。これでは実際の残業代と残業代以外の賃金の値段がわかりません。

 

このような書き方だと固定残業代とは認められない場合があります。したがって、表記する際には、「基本給40万円、固定残業代10万円」などのように、金額をわけて記載しましょう。

 

2.対価性の要件

2つ目は、固定残業代が時間外労働の対価として支払われることを明確にするという要件です。

 

固定残業代を「残業手当」という名称で支給している場合は問題ありませんが、企業によっては固定残業代を業務手当や職務手当、営業手当という名称で支給しているケースがあります。

 

「業務手当」などという名称で固定残業代を設定する場合、それが時間外労働の対価であることが明確でなければ、対価性の要件を満たしたことにはなりませんので注意が必要です。

 

3.固定残業代があることの合意

3つ目は、固定残業代として支払われている手当てが、残業代部分として支払われることについて、従業員と企業の間で合意されているという要件です。

 

たとえば、業務手当というような名称で支払われている手当が、固定残業代にあたるものである、という合意が企業と従業員の間でなされていれば、要件が満たされていることになります。

 

また、採用時に固定残業代について説明をせずに、あとから月給に固定残業代が含まれているという説明をするのは、合意として認められませんので、固定残業代制度が有効とは認められない可能性が極めて高いです。

 

採用時に固定残業代があることや、その金額についての合意が必要なことを注意してください。

 

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