今回は、M&Aアドバイザーの手を借りて、希望通りの企業売却を迅速に実現できたケースを見ていきます。※本連載は、起業支援NPO、金融コンサルティング・M&A・不動産・投資教育事業会社などを多数運営する、佐々木敦也氏の最新刊『中小ベンチャー企業経営者のための“超”入門M&A』(ジャムハウス)の中から一部を抜粋し、実際の中小ベンチャー企業のM&Aを例にとり、M&Aを中小企業経営成功の切り札にする方法を解説します。

社員の将来と自分の生活を守るためにM&Aを決意

前回の続きである。

 

妻は、N氏の学生時代の親友で一度会ったことのあるM&AアドバイザーのS氏に連絡をとり、今後について相談することにした。(※2)S氏は、N氏の訃報に驚きを隠せなかったと同時に亡き親友のため、全力でM&Aを成功させることを妻に誓った。

 

妻には病死の生命保険金・経営者保険が支払われ、当面の生活には困らない。しかし、今後を考えると安定した収入がほしいため、甲社の保有するビルの管理業務の仕事を残してほしいとの要望があった。また(※3)心配していたのは会社と社員の将来であり、実質のトップ不在の状態を一刻も早くなんとかしなくてはいけないと考えていた。

 

妻の意向を確認したS氏は、通常であれば売却についての過程で社員に開示はしないが、特別なケースでもあるため、現場責任者で最も社歴の長いO氏にはN氏の妻とS氏が同席して売却の件を話した。

 

O氏は、売却方針を聞いて驚いたものの、予想はしていたようだ。N氏の妻や営業マンの自分が会社を引っ張っていくのは難しいと感じていたからだ。そして(※4)従業員の継続雇用が約束されるなら、一刻も早く譲渡先を見つけてほしいという点で、O氏とN氏の妻の希望が一致した。

スムーズな交渉を経て、希望条件のすべてが充足

甲社としての意向が固まったことを踏まえS氏は甲社の同業他社と取引先企業にアプローチを始めた。甲社の同業他社や取引先としては様々あったが、残念なことに条件や譲渡価格面でかなり開きがあり、交渉は難航していた。

 

そんな矢先、(※5)S氏と面識があった上場企業でオンラインゲームを展開している乙社の財務担当役員から、甲社を是非面倒みたいとの積極的な申し入れがあった。目的は甲社トランクルーム事業のキャッシュフローの安定性だった。また少し毛色の違う事業に進出して分散化を図りたいとの要望もあった。

 

さらに、(※6)業績が好調で財務も健全な甲社は、上場している乙社にとって非常に魅力的だった。S氏から見ても、乙社なら売却後の事業の相乗効果も見込める良い相手だったと見込んだ。乙社は過去にもある金融会社を買収した経験があり、その金融会社は順調に成長をし、M&Aは成功を収めていたからである。

 

交渉はスムーズに進んだ。N氏の妻のビル管理業務の件も懸念されていた社員の継続雇用についても、甲社の希望を全面的に受け入れてくれることになった。代表取締役が急逝してから約半年後、異例のスピードで無事に契約が締結され、新たな代表取締役が就任。甲社は無事第二のスタートが始まることとなったのである。

 

 

成功の教訓

 

(※1・・・前回の記事を参照)(※6)甲社は、業績・財務とも充実しており、「魅力的な企業」であった。

 

(※2)(※5)緊急時のM&Aにおいては、親身かつ適切なアドバイザーに依頼し、専門的かつ迅速に対応していきたい。また同業や取引先以外で異業種を求めていた買い手候補が具体的にいたことが、甲社の条件を比較的有利に進められた要因でもある。

 

(※3)(※4)代表取締役が急逝後、価値の“棄損”を最小限にできたことも重要。

 

残された妻が「従業員の雇用安定」を重視して、速やかに「売却を第一に」と、ぶれない方針を固めたことがあげられる。迷いがある場合、アドバイザーの客観的で適切な対応が求められる。

中小ベンチャー企業経営者のための“超”入門M&A

中小ベンチャー企業経営者のための“超”入門M&A

佐々木 敦也

ジャムハウス

日本の中小ベンチャー企業がM&Aをどのように活用できるか、またすべきか、という視点に重きをおいてまとめた入門書。 元M&Aアドバイザーが客観的・中立的な視点で、大企業でない中小ベンチャー企業のM&A市場を概観し、M&Aの…

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