今回は、年商3億円に成長した企業のトップが突然倒れたケースを見ていきます。※本連載は、起業支援NPO、金融コンサルティング・M&A・不動産・投資教育事業会社などを多数運営する、佐々木敦也氏の最新刊『中小ベンチャー企業経営者のための“超”入門M&A』(ジャムハウス)の中から一部を抜粋し、実際の中小ベンチャー企業のM&Aを例にとり、M&Aを中小企業経営成功の切り札にする方法を解説します。

念願の不動産会社設立後、規模も着実に拡大

【甲社創業】

代表取締役のN氏は大学卒業後、不動産会社で働いていた。キャリアを積み重ねた後、30歳で遂に念願の不動産仲介を行う甲社を創業した。「顧客のために安心・快適な住まいをお世話する」。そんな想いから、優良紹介物件の収集と顧客開拓に多忙ながら充実した日々を送っていた。

 

設立当初から、忙しくて家庭もあまりかかわれなかったが、起業を後押ししてくれた妻は、経理も担当してくれ、当初の一番つらい時期を支えてくれた。N氏の粘り強い営業努力により、会社は少しずつ業績を伸ばし、取引先を増やしていった。従業員も一人、また一人と増え始めた頃、長女も誕生し、N氏はさらに仕事に注力するようになる。

 

トランクルームへの事業展開で年商3億円に

会社設立からすでに10年近くが経過していたある時、N氏は、不動産仲介だけでの事業進展の限界を感じ、自社のビジネスモデル構築を考えるため、MBAを取得できる都内のビジネススクールに通った。

 

仕事の合間の勉強はかなり厳しいものであったが、様々な経験をもつビジネスマンとの交流や担当教官から受ける最新のビジネス理論は新鮮かつ刺激を受け有益であった。そして、卒業するころ、これからの事業展開としてトランクルーム事業が伸びると考えたのである。

 

第二の成長期が来たと感じたN氏は、早々に新規事業として古くてオフィスが入らないビルを購入または賃借してその部屋を小分けにし、トランクルーム事業を始めた。同時に人材を中途採用して営業面を強化した。駅近や住宅街で荷物を運びやすくするため駐車場完備のビルを探し、セキュリティをしっかりさせ、顧客の要望に合ったトランクルームの種類を用意すると、徐々に顧客が増え始め、空きは順番待ちというぐらいに人気を呼んだ。

 

その後、「家庭の第二の収納スペース」や「土地活用」「ワインセラー専用のトランクルーム」ブームも重なり、(※1)甲社は順調に業績を伸ばしていった。そして年商3億円、優秀な従業員を10名抱える企業へと成長したのである。

社長の突然死――残された妻が社長に就任したが・・・

しかし、そんな絶好調の最中、N氏は突然の急性心不全で帰らぬ人となってしまう。あまりに突然のことで、家族も社員も衝撃を隠せなかった。

 

しかし、会社にはいつもと変わらず顧客から問い合わせの電話が鳴り、注文が入る。N氏の信頼が厚かった営業責任者の社員O氏がなんとか指揮をとりながら通常業務が行われたが、いきなりトップ不在となり現場は混乱し始めていた。残された妻としては、とりあえず空席となった社長職に就任したものの、経営経験もないため、会社は売却するしかないだろうという結論に至った。

 

妻としては夫を突然亡くし、とても会社を動かせるような気力はなかったが、残された社員の雇用だけは守ってあげたかったのである。

中小ベンチャー企業経営者のための“超”入門M&A

中小ベンチャー企業経営者のための“超”入門M&A

佐々木 敦也

ジャムハウス

日本の中小ベンチャー企業がM&Aをどのように活用できるか、またすべきか、という視点に重きをおいてまとめた入門書。 元M&Aアドバイザーが客観的・中立的な視点で、大企業でない中小ベンチャー企業のM&A市場を概観し、M&Aの…

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