本連載では、相続対策の切り札ともいえる「プライベートカンパニー」の活用術を紹介します。今回は、プライベートカンパニーを活用した相続対策の基本的な仕組みを見ていきましょう。

収益不動産を活用した相続対策との併用も効果的

以前の連載では、収益不動産の購入について詳しく説明しました。余命1カ月でも効果が期待できる相続対策として、もうひとつ挙げられるのがプライベートカンパニーの活用です。プライベートカンパニーの活用は、収益不動産の購入と組み合わせて実行することもできるため、いわば相続対策の切り札と言ってもいいでしょう。

 

基本的な仕組みはこうです。資産家やその相続人が出資して、株式会社(プライベートカンパニー)を設立します。役員は家族のみの同族会社です。このプライベートカンパニーが、出資金や借り入れなどを利用して資産家本人が所有している不動産を取得したり、あるいは新たに収益不動産を購入します。

 

その収益を同族で分配するとともに、相続時には不動産ではなくプライベートカンパニーの株式で相続税評価を受けるのです。こうすることで資産の収益性を高め、かつ予め相続人に分配し、さらに相続時の税負担を抑えることを目指します。

 

いずれにしろ、プライベートカンパニーを利用する仕組みの核心は、資産を個人ではなく
法人(プライベートカンパニー)に移すことにあります。

いろいろな課題が複雑に絡み合ったケース

実際の例を見てみましょう。Eさん(65歳)は神奈川県内の地主一族の長男で、先祖伝来の土地を守ることが使命と考えていますが、現在は23区内で不動産貸付業を営み、生活の拠点も都内の高級住宅地に移しています。主な資産は下の表のとおりで、相続税評価額は18億円になります。借入金が5億円あるので正味の遺産総額は13億円です。

      Eさんの主な資産内容

資産からの収入は年間8000万円ありますが、管理費や固定資産税の支払いが年間2500万円、ローンの返済が元利合計で年間3500万円、その他、所得税と住民税が年間1000万円ほどかかり、生計が一緒の家族が自由に使えるお金は年間1000万円足らずです。総資産額やそこからの収入に比べ、手元に残るキャッシュが少ない典型的な地主タイプの資産家といえます。

 

「父の相続が3年ほど前にあり、相続税の支払いに苦労しました。このままでは私の相続のとき、妻や4人いる子どもたちにも同じような思いをさせてしまうのではないか。なんとかそうした事態は避けたいと思うようになりました。また、いくら地主一族とはいえ、家を守る感覚が薄れている子どもたちが将来、妻が亡くなった際にはもめる可能性もあります。子ども4人が法定相続で分けてしまうと、恐らく本宅の屋敷は守れなくなるでしょう。できれば長男に承継してもらいたいのですが、かといってほかの子どもにもそれなりの財産を残してあげたい。考えれば考えるほど、どうしていいか分からなくなってきました」

 

知り合いの税理士の紹介でEさんから相談を受けた私(福田)は、こうお答えしました。「いろいろな課題が複雑に絡み合っていて、これをやればすべてうまくいくといった魔法の解決策はありません。ただ、プライベートカンパニーを活用しながら、一つひとつ順を追って解決策を考えることはできると思います」こうして、Eさんへのコンサルティングが始まりました。

本連載は、2015年9月19日刊行の書籍『余命一カ月の相続税対策』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。
〈税務の取扱に関する留意点〉
本連載の内容は、平成28年7月現在の税制・関係法令等に基づき記載しております。今後の税制改正等により税務の取扱等が変わる場合もありますので、記載の内容につきましては将来にわたって保証されるものではないことにご注意ください。個別の税務取扱い等については、税理士や所轄税務署等にご確認されることをお勧めします。

余命一カ月の相続税対策

余命一カ月の相続税対策

福田 郁雄,木村 祐司

幻冬舎メディアコンサルティング

突然やってくる“その時”、わずかな時間でできる対策は限られています。しかし、正しいノウハウをもってすれば、相続税対策は2週間程度で完了、相続税をゼロにでき、それどころか、子孫に受け継いだ資産がその後も増え続けて…

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