M&A取引価格の決定方法と留意点
M&A取引価格は、売り手と買い手との交渉による合意により決定されますが、その状況により価格主導権が変わります。M&A人気業種(ITなど)であれば、売り手主導にて価格交渉が進められます。のれん評価(評価倍率)も、一般的な水準以上(3倍から5倍、またはそれ以上)になる場合もあります。
一方、スモールM&Aの場合には、買い手が評価する価格でM&A取引価格が合意され、決定されることが多いといえます。また、スモールM&Aの買い手は、売り手にM&A取引価格を提示する際、年買法のほか、時価純資産法や倍率法なども検討し算定しますが、簡易株価評価(価値算定)の際、それぞれの算定結果が大きく乖離する場合があります。以下は、買い手にとって留意すべき点です。
①純資産大、有利子負債大、収益力小の場合(年買法>倍率法)
会社の純資産が大、会社の有利子負債が大、収益力が小の場合、会社BSに基づき年買法で算定された価値(譲渡対価)を、収益力に基づく算定方法(倍率法)などで算出した会社の株式価値が大きく下回るケースがあります。
中小企業M&A・スモールM&Aにおいて、過去に利益を上げ純資産が積み上がったものですが、直近足元では収益力が悪化(あるいは赤字)となっているようなケースです。このような場合には、年買法だけの価値算定だけではなく、収益力に基づく算定方法(倍率法など)も考慮し、両手法の価値算定(加重平均等)を用いることが重要です。
②純資産少、収益力大の場合(年買法<倍率法)
また会社の純資産少で、会社の収益力が大の場合、例えば、新興のIT企業やベンチャー企業などの成長企業において、複数の買い手候補からの提案を比較検討している場合(入札方式)、会社BSに基づく年買法で算定された価値(譲渡対価)では、対象会社の希望価格に届かず、また、競合している他社に金額提示において負けてしまうケースがあります。
このような場合にも、年買法だけではなく、収益力に基づく算定方法(倍率法など)を活用し、両手法の価値算定を用い検討を進めることが重要です。
五十嵐 次郎
ファイブ・アンド・ミライアソシエイツ株式会社
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