前頭葉上面が萎縮すれば、意欲が落ちて性格的は丸く…
●人格が丸くなる人と尖る人
メンタルの老化によって、人格が変化することがあります。これには円熟化と先鋭化があり、人格が丸くなって怒らなくなった場合は円熟化、怒りっぽかった人がますます怒りっぽくなるのは先鋭化です。丸い飴玉になる人と、金平糖みたいに尖る人がいるわけです。
どちらになるかは、人それぞれ。元の性格が影響するのは当然ですが、脳の血管と神経細胞の老化が、どの部分に影響を及ぼすかにもよります。前頭葉の上面のほうが萎縮すると、意欲が落ちていき、性格的には丸くなります。下のほうが萎縮すると抑制が外れるので、先鋭化する傾向があります。
認知症のひとつであるピック病(前頭側頭型認知症)の特徴的な症状も、人格の変化です。理性や感情のコントロールがきかなくなり、自己中心的な言動が目立ち、怒りっぽくなったり、交通違反をしたり、店でものを取って食べて平然としているなど、日常生活で常識をはずれた行動異常が見られます。
初期には記憶が保たれているので、記憶が低下しても人格が変わらないアルツハイマー病とは対照的。40~60代の比較的若い世代で発症するのも、特徴です。
このピック病は、大脳の前頭葉・側頭葉が萎縮することによって、意欲が暴走してしまうのです。
●変化を促す4つのピーク
では、性格は何によって形成されるのかと言われると、これが難しい。遺伝という言い方をすると親の影響だけになってしまいますが、第一に先天的な要素があります。
母親のお腹にいる胎児のときから、脳の神経細胞は育ち、ネットワークを形成します。そのネットワークの作られ方によって先天的な性格は決まるのですが、その細かい仕組みは解明されていません。
たとえば一卵性双生児の場合、遺伝子がまったく同じですから、同じような病気にかかることがありますが、一致率は50%くらいです。性格も同じにはなりません。それは、生まれたあとの環境要因が影響するからです。
もちろん、穏やかな環境や精神状態に置かれたほうが、健やかに育つことは確かでしょう。
発育には、いくつかピークとなる時期があります。親から離れて小学校に入る前の5、6歳までと、ホルモンが変わってくる第二次性徴期、つまり思春期です。それから、社会人になるという大きなライフイベントの時期が、身体面にも精神面にも影響を及ぼします。そして初老期から老年期に、老化が進むわけです。
●性格と病気の親和性
若い部下への対処に困った上司の方から、相談を受けることがあります。「どれほど注意しても、仕事ぶりが変わらない。発達障害ではないか。注意欠陥・多動性障害(ADHD)ではないか」と言うのですが、入社試験に受かって会社勤めができている人なら、基本的にそうした障害はないものです。
「意・情・知」の下には、持って生まれた性格と、現在置かれた環境があります。注意や𠮟責を気にしすぎ、その日にやるべき仕事を一から十まで書き出し、終わらせなければという重圧でさらに時間がかかり、延々と残業する部下がいます。一方で「もういいや」と諦め、5時になると帰ってしまう部下もいます。
これは、元々の性格の違いです。それぞれの性格が、老化によって円熟化するのか、あるいは先鋭化されるのかは、また別の話です。
精神医学では「病前性格」といって、性格と病気の親和性に注目します。うつになりやすい人や統合失調症になりやすい人には、性格的な傾向があるのです。一方、認知症になりやすい性格傾向はありませんが、認知症の症状の現れ方には、元の性格が影響します。
また、会社の給料が低いとか、上司が細かくガミガミ言いすぎるせいで仕事にやる気が出ないとすれば、性格より環境が原因でしょう。
まず元の性格があり、次に環境があり、さらに老化が影響することでメンタル面は変わってきます。これも人間の面白いところです。
新井 平伊
順天堂大学医学部名誉 教授
アルツクリニック東京 院長
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