裁判では、誕生祝い金が特別受益に該当するかが問題に
本件は、東京高等裁判所平成30年11月30日決定の事例をモチーフにしたものですが、本件では「親から子への、子の誕生祝い金200万円の贈与が特別受益(生計の資本としての贈与)に該当するか」という点が問題となりました。
出産祝い金、新築祝い、入学祝いなどの祝い金については、「親として通常の援助の範囲内でなされたお祝いの趣旨に基づく贈与は、特別受益にはならない」というのが家庭裁判所の実務の考え方となっています(「家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務(第3版)」片岡武ほか)。
そのため、本件では、この誕生祝い金が「親として通常の範囲内でなされたか」という点が問題となりました。
この「親として通常の範囲内でなされたか」という点の判断は、贈与の額が重要な要素となりますが、この他、支出当時の被相続人の資産及び社会的地位等と言った被相続人の状況、当時の社会状況、相続人間の公平という観点なども併せて考慮されます。
本件事例で裁判所は、以下のように述べ、金銭が多額であること、相続人間の公平を考慮し、子の誕生祝い金200万円は特別受益に該当すると判断しました。
「昭和51年当時における200万円という金額は、被相続人の資産、被相続人と申立人(贈与を受けた者)との親子関係等を考慮するとしても、当時の貨幣価値からすると、社会通念上高額であるし、また、本件においては、相手方(贈与を受けていない相続人)には同様の趣旨に基づくお祝い金が贈られていないことからすると、相続人間で均衡を失するから、200万円の贈与は特別受益に当たる。」
最終的に「100万円」が特別受益に認定されたワケ
もっとも、裁判所は、以下のように述べて、200万円のうち、100万円については被相続人に持戻免除の意思があったとして、最終的に100万円を特別受益と認定しました。
「他方で、被相続人の孫の誕生を祝う心情と被相続人の資産等を考慮すると、100万円の限度においては親としての通常の扶養義務の範囲内に入るものと認められるから、特別受益の持戻し免除の意思を推認できる。」
このように、特別受益については、金銭の贈与の有無とその立証だけでなく、贈与が生計の資本に該当するか否か、持戻免除の意思表示があったか否か等、複数の観点から考慮が必要となりますので、特別受益を主張する相続人は、これらの観点から検討して的確に主張する必要があります。
※本記事は、北村亮典氏監修のHP「相続・離婚法律相談」掲載の記事・コラムを転載し、再作成したものです。
北村 亮典
こすぎ法律事務所弁護士
【関連記事】
税務調査官「出身はどちらですか?」の真意…税務調査で“やり手の調査官”が聞いてくる「3つの質問」【税理士が解説】
恐ろしい…銀行が「100万円を定期預金しませんか」と言うワケ
親が「総額3,000万円」を子・孫の口座にこっそり貯金…家族も知らないのに「税務署」には“バレる”ワケ【税理士が解説】