うつ、不安・緊張、対人関係の問題、依存症――近年、これらの悩みを抱える人はますます増えている。実は、それぞれに共通する原因になり得るものとして、親との関係によって築かれる「愛着」がある。ここでは、「愛着アプローチ」という手法を用いて、現代人の悩みの解決に寄与したい。※本連載は、精神科医・作家である岡田尊司氏の『愛着障害の克服 「愛着アプローチ」で、人は変われる』(光文社新書)より一部を抜粋・再編集したものです。

根本の姿勢・考え方を理解するには、長い時間がかかる

そうした点を考慮して、ここで述べるアプローチの説明では、実際に使える原則を重視し、あまり細かい技法などには深入りしないことにした。そうした細かい技法は、相手によってうまくいくこともあれば、あてが外れることも多く、むしろ技法を意識して使ったりすると、たいてい失敗するのがオチだからである。

 

細かな技法はあまり役に立たない。むしろ大事なのは、根本にある姿勢や考え方の部分である。そこさえ見当外れな方向を向いていなければ、後は誠意と根気さえあれば、早晩事態はいい方向に向かうものだ。

 

ところが、この姿勢や考え方の部分がなかなか難しいのである。いちばん難しいといってもいいかもしれない。頭でわかっていても、それが本当にその人のものになっていなければ、自分では良いかかわりができていると思っても、実際にはまったく変わっていないということも起きる。

 

そのことが本当にわかるためには、まず、本気で自分の課題に向き合う気持ちが必要であるし、さらに長年染み付いた考え方や姿勢を変えていくのには、長い時間と粘り強い努力が必要になる。できれば、こうしたことを体得した人から指導を受けた方が良い。というのも、自分では、どこがまだダメなのか、そのことにさえ気づけないことが多いからだ。

 

そうしたことを踏まえて、ここではまず心構えや姿勢、考え方の部分を中心に述べていきたい。愛着アプローチとはどういうものか、その上で大事なことは何か。愛着に働きかけ、それを安定したものに変えていくためには、何をしたらいいのか、何をしてはいけないのか。

 

愛着アプローチの基本概念と大原則について説明を進めていこう。

愛着の安定を目指すか、他者との関係を修復するか

愛着アプローチには、大きく二つの手法がある。一つは、愛着修復的アプローチであり、もう一つは、愛着安定化アプローチである。

 

愛着修復的アプローチは、その人にとって重要な他者との愛着を安定したものに回復させることを目指す方法である。

 

この方法によって、虐待したりネグレクトした親や、DVやモラルハラスメントをおこなってきた配偶者との傷ついた愛着を修復することに取り組む場合もあるが、虐待やネグレクト、DVなどはなくても、思いがすれ違って関係がぎくしゃくしていたり、支配や依存が強くなりすぎたりしている親子や夫婦などにおいて、片方に、または両方に働きかけることで、互いの関係を改善することもある。

 

また、ただ単に、親子関係や夫婦の関係の改善自体が目標というよりも、その取り組みを通して、子どもの問題を改善したり、妻や夫に現れている問題行動や症状の改善を図るだけでなく、その人たちみんなの人生を、より安定した豊かなものにすることを目指す。

 

一方、愛着安定化アプローチは、重要な他者との関係修復には必ずしもこだわらず、誰であれ、その人の身近にいる存在が、臨時の、あるいは半永久的な安全基地となることで、愛着の安定を図る方法である。支援者やカウンセラーが支え役になる場合も、このアプローチだといえる。

 

ケースによっては、愛着の安定化のために、関係が悪化している親や配偶者とのかかわりを控えさせる場合もある。そうした場合には、愛着安定化アプローチによって、とりあえず利用可能な存在との関係を安定させることで、当面の本人の苦痛や状態の改善を図ることになる。

次ページ2つのアプローチの使い分けはタイミングが命取り
愛着障害の克服 「愛着アプローチ」で、人は変われる

愛着障害の克服 「愛着アプローチ」で、人は変われる

岡田 尊司

光文社

幼いころに親との間で安定した愛着を築けないことで起こる愛着障害は、子どものときだけでなく大人になった後も、心身の不調や対人関係の困難、生きづらさとなってその人を苦しめ続ける。 本書では、愛着研究の第一人者であ…

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