「愛着」を扱う技術にマニュアルなし…肌感覚で覚える
医学モデルではなく、愛着モデルに基づく考え方では、最終的に起きている症状を治すことにとらわれず、ベースにある愛着障害を改善することで、そこから派生している多様な問題や、陥っている悪循環を改善しようとする。
愛着障害があると、関係が不安定になり、安心感が脅かされ、傷つきやすくなっている。そのためストレスに対しても過敏になり、さまざまな問題が起きている。愛着の安定化を図ることで、関係を安定しやすくし、安心感を高め、傷つきやすさを和らげようとするのである。その結果、症状の改善だけでなく、社会適応や自己肯定感も高まっていく。
ここでは、愛着モデルに基づいて、さまざまな問題の改善を図る手法である「愛着アプローチ」について、その基本的な考え方や、取り組む上での心構えについて述べていきたい。
愛着を扱う技術は、飛行機を操縦する技術のようなものである。ときには非常に癖のある機体だったりして、尾翼やエンジンにうまく動かない部分を抱えていることもある。操縦しにくい機体を乗りこなす技術に匹敵する技量が必要なのである。
それゆえ、ただ知識として「こうすればいいのだ」と知ればすむものではない。扱い方の基本がわかっていなければ話にならないが、それだけでうまく乗りこなせるほど簡単なものではない。基本を頭に入れながら、何度も練習を積み重ねる中で体得するしかない。
またあまりにも細かすぎるマニュアルのようなものは実際には役に立たない。なぜなら、一人一人がもっている特性や課題は微妙に異なるからだ。メーカーも型番も、抱えている問題も異なる機体を、一つのマニュアルで動かそうとしてもうまくいかないのと同じである。
こういう場合には、むしろ大きな原則を知っておいた方が役に立つ。
たとえば、胃カメラや大腸ファイバーを初心者の医師に教える場合に、指導医はどうするか。方法や手順は、知識として頭に入れておくことができるが、実際にやるとなると、後は感覚で覚えるしかない。しかし、闇雲にやらせたのでは危険なことになる。指導医は、幅広く適用でき、かつ危険を避けるために実際に役立つ経験則を授ける必要がある。
たとえばその極意は、「抵抗を感じたら、無理やり入れるな。いったん、戻せ」といったものである。簡易な言葉で表現された、じつに単純な原則だが、こういうシンプルな原則の方が実践では役に立つ。致命的な危険や失敗を避けるために、とても有用な原則なのである。
相手が人であり、しかも不安定なところもある相手である。気分もあっというまに変化するかもしれないし、こちらの予想通りに動いてくれることはあまりない。そんなとき、瞬間的に判断して即座に対応するためには、複雑で込み入ったマニュアルでは、とうてい使い物にならない。