(画像はイメージです/PIXTA)

中国の新彊ウイグル問題は、米国務省がジェノサイド認定を行ったほか、2021年6月の国連人権理事会でも、カナダが44ヵ国を代表して「非人道的行為」として対中非難共同声明を出すなど、国際的に注視されている。一方の中国は激しく反発するが、欧米からの非難に相当神経質な様子だ。この問題の実態を掴むのは容易ではないが、表面からはうかがえない、複雑な側面に留意が必要である。本稿は筆者が個人的にまとめた分析・見解である。

反発と警戒を強める中国当局

米国務省が一連の報告書でジェノサイドや強制労働があるとしたことに対し、中国外交部はその都度、定例記者会見で「一部の反中勢力の誤った情報に基づく今世紀最大の大嘘(謊言:フアンイエン)」「報告書は一片の紙くず」「デマ(謡言:ヤオイエン)に基づく中傷。人権問題を口実に内政干渉し、中国の顔に泥を塗ろうとする(抹黒)邪悪な下心(用心)が暴露された」とし、米国先住民などの例を挙げて、「自らが病んでいるのに、医者のふりをして他人の脈をとり、薬を処方しているような笑話」「米国には至る所で人権の指揮棒を振り回す資格はない。米国がすべきことは、自らが行ったジェノサイド、人種差別、強制労働などの人権に関わる犯罪を反省し正すことだ」などと激しく反発している。

 

6月G7コミュニケについても、中国外交部は「政治的茶番劇(闹劇:ナオジュ)」「人為的に対立と隔たりを作り、矛盾を大きくしようとする米国など少数の国の下心がみえる」と批判。党中央委員会(党中央)の機関誌人民日報や同系列の環球時報は、「一部の利害グループ(小圏子)による集団政治は時代の流れに逆行」「G7の盛り上がり(造勢)、中国人はその手は食わない(不吃這一套)」とする論評や社説を掲載。

 

米国が単独で中国批判をするときと比べ、コミュニケのトーンが弱くなっていることに着目し、コミュニケは「米国主導、各国妥協の産物」としたうえで、「米国は自らの極端な主張を‘七国化’することに失敗」「対中統一戦線と言われるものは実質より虚構が大(虚大于実)」と論評。ただ同時に、米国が同盟国を取り込んで一定の意思形成をする能力はあることも示されたとしており(6月14日付「環球時報」社説他)、米バイデン政権が前政権から一転して、西側諸国による対中包囲網を形成しようとしている現下の情勢に警戒感を強めている。日本のメディアに対しても、欧米の対中非難は好んで紹介するが、それとは反対の専門家の意見は無視するという偏向が顕著だと批判している(5月21日付「人民網」)。

 

8月には自治区政府自身が専門の学者を同席させて本問題に関連した記者会見を開き、「米国こそがイスラム教徒を迫害」「米国こそが本当にジェノサイドを行っている国」などの主張を展開した。

 

他方で、中国当局が欧米からの非難に神経質になっていることを示す一連の動きがある。

 

①国務院(政府に相当)が立て続けに人権に関する白皮書を発表。6月に「中国共産党の人権の尊重と保障の偉大な実践」を発表したことに続き、7月、「新彊各民族の平等な権利の保障」を発表。公民権、政治的権利、経済的権利、文化的権利、社会的権利、女性と子供の権利、信教の自由の権利の面から、新彊各民族は平等な権利を保障されていると説明。さらに8月、「小康(ややゆとりある)社会の全面的完成:中国の人権事情の発展における輝かしい章」を発表。

 

②日本語を含む人民日報外国語版は7月、5回に分けて、「新彊:私たちのストーリー」と題する動画をネット上に掲載。新彊の学校や家庭、農村などでウイグル人を取材し、その生活や文化を紹介。動画の言語はプートンフア(普通話)と呼ばれる中国語の標準語が主だが一部ウイグル語も使用されており、プートンフアと英語の字幕が付いている。官製メディアが都合のよいところだけを編集して対外的にみせようとしたものとの疑念が拭い切れないが、掲載のタイミングから、欧米の対中非難を意識したことは明らか。

 

③中国当局は以前から、沿海部の発達した省市と自治区を一対にして、前者が後者を支援するスキーム(対口援彊)を設けているが、7月、その会議を2年ぶりに自治区で開催。新彊担当の汪洋党常務委員が出席し、対口援彊の下で、より多くの資金や人材を自治区に投入していくことを表明。

 

④習近平氏が7月、国家主席としては1990年以来31年ぶりに、同じく少数民族問題を抱えるチベット(西蔵)を視察。公式目的は「西蔵解放70周年」、実質目的はインドへのけん制という色彩が強いが(西蔵はインドと国境を接し、国境を巡る両国の緊張は再び高まっている。またインドは中米関係が緊張する中で米国寄りとなって、中国の「世界の工場」としての地位に脅威を与える存在になりつつある)、視察中、習氏は少数民族政策の正当性を強調しており(後述)、新彊問題も念頭にあったことは間違いない。なお、視察の事前発表がなかったことや、夏にもかかわらず、習氏だけが冬服のようだったのは防弾服ではないかとの憶測が流れるなど、西蔵も中国当局にとって引き続き敏感な地域と認識されていることがうかがわれた。

 

新彊の実態がどうなっているのか、直接自分の目で確かめるべきところだろうが、残念ながら、現実問題としてなかなか難しい。ただそれを置いても、本問題には複雑な側面があることに留意する必要がある。すなわち、①「ジェノサイド」が意味するもの、②中国の一般の人々の受け止め方、③人権に対する考え方、力点の違い、④出生率に伴う不透明性、⑤政治外交問題化への懸念である。詳細について、次回以降見ていく。

 

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